米国はシェール開発で、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国となった。採掘技術の低コスト化も進んでいる。ロシア産の天然ガスに頼れなくなった欧州は米国からの輸入を増やすが、これを続けるのは簡単ではない。気候変動問題が天然ガスに及ぼす影響が不透明で、企業が調達に向けた長期契約に二の足を踏んでいるためだ。

英国にLNGを運ぶ米国の輸送船(写真=Jeff J Mitchell/Getty Images)
英国にLNGを運ぶ米国の輸送船(写真=Jeff J Mitchell/Getty Images)

 「液化天然ガス(LNG)の輸送船1隻で、欧州の100万人の暖房を1カ月賄える」。米国のLNG輸出最大手、シェニエール・エナジーの従業員は、米テキサス州コーパス・クリスティに同社が持つ巨大な輸出ターミナルに接岸した特殊な輸送船を指さして、そう豪語した。

 シェニエールはこの施設に170億ドル(約2兆4000億円)を注ぎ込んできた。10月には、80億ドル(約1兆1000億円)の施設拡張工事の起工式を行った。米ルイジアナ州には、さらに大規模な施設を持つ。

 2019年にドナルド・トランプ政権は「世界中へ自由自在に天然ガスを送り出す」と宣言した。当時は大げさな表現と思われたが、今となってこの言葉は福音に聞こえる。ロシアがウクライナ侵攻後、西側の経済制裁に対抗して欧州への天然ガス供給を絞ったためだ。ガス価格は今年の暖かめの気候のおかげもあって、ピーク時より下がっている。だが、欧州諸国はロシア産に代わる燃料を求めている。米国の天然ガスの存在は、「渡りに船」となるだろう。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、22年1~6月期のLNG輸出量は前年同期比12%増だった。ガス化した体積で換算すると57bcm(1bcmは10億m3)で、その3分の2近くが欧州向けだ。通年で約3分の1だった21年と比べて大幅に増えた。米国はオーストラリアとカタールを抜いて、世界最大のLNG輸出国となった。

 3月には米国と欧州連合(EU)が、米国からのLNG輸出を10年間、年50bcm増やすことで合意。11月7日には英紙デイリー・テレグラフが、英国と米国が近々LNG供給の大型契約を発表すると報じた。

 米国のLNG増産はまだ軌道に乗ったばかりだ。米天然ガス開発大手EQTコーポレーションのトビー・ライスCEO(最高経営責任者)は、米国のLNG輸出能力を、30年までに4倍の1日当たり1.6bcmに引き上げることを望んでいる。エネルギー危機の緩和につながるのみならず、新興国の石炭火力発電の代替燃料として天然ガスを使うことで気候変動問題対策にもなる、とライスCEOは語る。

 米国を永続的なLNG超大国にするというのは、簡単なことではない。果たしてそれは可能なのだろうか。

 米国の天然ガス埋蔵量は多い。EIAの推定では、可採埋蔵量は現在のペースであと100年生産を続けられるほどある。多くはアパラチア山脈地下のシェール層に含まれる。ここには世界最大級のガス田が2つあり、その一つ「マーセラス」ガス田は、他の上位10カ所のガス田を合わせたものよりも大きい。

米LNGが進める技術革新

 米国のLNG企業は、多くの大型開発計画を抱える。カタールは今後500億ドル(約7兆円)を投じて輸出能力を5年間で7割近く増強する計画だが、それすらも小さく思えるほどだ。世界で現在建設中または構想中で、30年までに完成予定のLNG生産設備の約半分が、米国での計画となっている。

 また、リスクを嫌うLNG業界の基準からすると、現在は驚異的なスピードで技術革新を進めている。米ベンチャー、グローバルLNGは、モジュラー方式の液化装置利用の草分けだ。この装置は工場で製造し、現地に運び込んで使うことができる。

 コーパス・クリスティの造船所では、米ニュー・フォートレス・エナジーというスタートアップ企業が「ファストLNG」という液化装置を製作している。こちらは既存の船舶や掘削設備(リグ)に据え付けることができる。この方式だと、1基につき数十億ドル必要だった初期投資が7億~8億ドルまで削減可能だ。

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