イスラエル総選挙でネタニヤフ氏を支持する勢力が過半数を獲得、同氏の首相再任が濃厚だ。大きく議席を増やしたのは、パレスチナに対して強硬な主張をする極右「宗教シオニズム」。背景には、繰り返されるアラブ系住民との衝突で治安に不安を抱くユダヤ系住民の懸念がある。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ元首相が、右派から左派まで8つの党からなる連合勢力に追われて首相の座を下りてから、まだ1年半もたっていない。しかし、11月1日に実施された総選挙の結果、同氏が首相に返り咲く可能性が高まったようだ。

 その要因は、極右政党「宗教シオニズム」が議席を伸ばしたことにある。同党を率いるイタマル・ベングビール氏(46歳)は、人種差別をあおったとして有罪判決を受けたこともある強硬なユダヤ民族主義者だ。

ベングビール氏の大げさな言葉は物議を醸している(写真=AP/アフロ)
ベングビール氏の大げさな言葉は物議を醸している(写真=AP/アフロ)

 現在の開票率は89%。最後のどんでん返しがない限り、ネタニヤフ氏が率いる政党リクードと、共闘する宗教シオニズムほか2つのユダヤ教超正統派の政党が、合わせて過半数を制するものとみられる*1。この結果、ネタニヤフ氏が首相としてイスラエル史上最も右寄りの政権を樹立する可能性が高まった。

*1=4党で過半数を得ることが確定した

 この迅速な復権は、ネタニヤフ氏個人にとって大きな勝利だ。同氏は20年前からイスラエル政治を支配してきた。この2年間は収賄、詐欺、背任容疑での裁判を戦い、これまでの同志と仲たがいして、政治家としての勢いが衰えていた。

 この選挙結果は、イスラエル政治が右傾化していることの最新の表れでもある。宗教シオニズムは議席を倍以上に増やし、第3党になろうとしている*2。ベングビール氏が広めた強硬な主張への支持が急速に高まったことが要因だ。

*2=宗教シオニズムは第3党となった

 ベングビール氏は、アラブ系イスラエル人から市民権を剥奪せよと主張していたラビ、メイル・カハネ氏の教えを受けた人物で、イスラエルの政界では最近まで目立った存在ではなかった。カハネ氏が創設した政党は、米国がテロ組織に指定している。

 ベングビール氏は2021年に議員に当選すると、急激に頭角を現した。同氏が反逆者と見なす複数のパレスチナ人の国外追放や、イスラエル軍兵士が「テロリスト」に立ち向かう際の行為について訴追を受けないようにすることなどを訴え、強硬派の有権者の支持を集めた。

 ベングビール氏は10月、東エルサレムでアラブ系とユダヤ系の若者同士がにらみ合った際、投石するパレスチナ人たちに警察は発砲すべきだと、拳銃を振りかざして訴えた。

治安上の不安が後押し

 ネタニヤフ氏は21年、ベングビール氏は閣僚にふさわしくないと述べていた。同氏は数年前まで、1994年にモスクで29人のパレスチナ人を虐殺したバールーフ・ゴールドシュテインの写真を自宅に飾っていた。

 しかし、1日の総選挙に向け宗教シオニズムへの支持が急上昇したことを受け、ネタニヤフ氏はベングビール氏の入閣について可能性を認めた。同氏は新内閣で公共治安(警察)相のポストを要求している。