パンデミックでビデオ会議が主流の時期でさえ、納税申告では対面の相談と紙の書類を望む人が多かった。かつて予測されたような完全なペーパーレス化が進まないのは、こうした「信頼」や「感情」の問題があるからだ。現代の世界は、デジタルとリアルが混じり合う刺激的な文化を育んでいるとも言える。

今週、筆者は嫌々ながら現代社会ならではの「しきたり」に従った。納税申告を済ませたのだ。同じような思いをした米国人は、恐らく1900万人ほどいたことだろう。10月17日まで延長された期限ぎりぎりでの申告だった。
このしきたりは、毎年全米各地で行われ、その都度、経済学者や政治家たちの間では、どのような税制が最も理にかなうかという議論が湧き起こる。同時に、誰もあまりはっきり口にしないが、ある重要な疑問を感じずにはいられない。それは、電子サービスをどこまで信頼できるのかという問題だ。
我々はどのくらい強く、生身の人間との接触を、あるいは紙とインクを求めているのだろうか。
米納税申告支援大手H&Rブロックで最近起こった出来事は、この問題を考える際、注目に値する。同社は70年前から米国民の納税申告を支援する事業を手がけてきた。各地に窓口店舗を展開し、その巨大なネットワークを運営することが事業の中心だった。各店舗では、専門のアドバイザーが対面で顧客相談を受ける。
「納税支援事業は、昔から紙の仕事だった」と、H&Rブロックのジェフ・ジョーンズCEO(最高経営責任者)は最近筆者に語った。同社は、紙に代わるデジタルな手法も取り入れてきたが、興味深いことに、顧客の多くは今でも店舗に足を運び、「税金の専門家と顔を突き合わせて座る」ほうを選ぶのだという。
対面で話したいという顧客の気持ちは非常に強い。新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、H&Rが一部の店舗を閉鎖していた時期でさえ、顧客がひっきりなしにやってきては、アドバイザーと直接話をさせてほしいと要求してきたという。閉鎖せず、営業を続けた店舗には列ができた。
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