OPECプラスの減産決定を受け、サウジアラビアと米国の同盟関係に大きなヒビが入った。米国は原油価格の上昇はロシアを利すると非難するが、サウジは市場動向を見据えた現実的な判断だとする。石油の安定供給と安全保障の交換取引が成立しなくなり、両国の蜜月は崩れるが、代替案も見当たらない状態だ。

サウジアラビアでは、「タラーク(離婚)」と3回唱えるだけで、離婚が成立するという。だが、幸か不幸か、外交関係の断絶は、離婚ほど簡単には済まない問題だ。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は10月5日、1日当たり200万バレルの減産を決定した。この決定後、米国とサウジの関係はここ数十年で最低のレベルにまで落ち込んでいる。最も冷え切ったものとなってしまった。
米民主党は、77年連れ添ったパートナーを見捨てる決意をしたようだ。一方、ペルシャ湾岸諸国は、こうした米国の態度を、自分たちをばかにした無礼なものであると、怒りを募らせている。
どんな関係であっても、長く続けば時に怒号の一つくらい、飛び交うだろう。しかし、完全に断絶する可能性が低いのと同様、米国と湾岸の同盟諸国が関係を修復できる望みは薄い。両者の間を何十年にもわたり支えてきた、原油供給と安全保障のトレードオフに基づく関係はもはや崩れ去った。それに代わるものが何になるかは、両国はいまだ答えを出せていない。この不幸な婚姻関係は、もうしばらく続きそうだ。
原油価格上昇を非難
サウジに言わせれば、OPECプラスの減産決定は実務的な判断だった。石油市場は混乱し、価格は乱高下している。OPEC加盟国の多くは、これまでの割当量すら満足に生産できていない。先進国に景気後退が迫り、石油需要は落ち込みが予想される。サウジは、この減産は供給過剰を回避し、生産能力にある程度余裕を持たせるための現実的な対応だと説明する。しかし米国の目には、減産は恥知らずな裏切りと映った。
米国のジョー・バイデン大統領は、2018年にジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された件をめぐり、サウジをのけ者扱いすると宣言した。しかし22年6月に原油価格が1バレル当たり120ドル(約1万8000円)に達すると態度を一変。7月にはサウジの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子に会うべく、サウジに飛んだ。
それからわずか3カ月足らずの間に、サウジは(減産という)原油価格の上昇につながる行動に出る。バイデン大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン政権の国庫を潤す原油価格の上昇を引き起こしたサウジは、ロシアに肩入れしていると非難。「何らかの報復措置があるだろう」と怒りをあらわにした。
民主党の多くの議員は、サウジが11月の米中間選挙で共和党の勝利を望んでいると主張する。ガソリン価格の上昇は民主党政権にダメージを与えるからだ。しかし、湾岸諸国からすれば、まったく思いもよらない主張である。各国の石油相は、米ペンシルベニア州の上院議員選挙の結果を左右するために、世界のエネルギー市場に関する判断を下しているわけではない。
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