1人の死をきっかけに噴出したイラン女性たちの政府への抗議は、全国民を巻き込む活動に発展した。最高指導者は、風紀警察から警察、革命防衛隊配下の組織へと対応を強め、さらに反発を呼んでいる。現時点の抗議活動は学生主体で統治に揺るぎはないが、経済界や国軍の動き次第で一層の激化もあり得る。

イラン発の抗議は世界に飛び火した(写真=AFP/アフロ)
イラン発の抗議は世界に飛び火した(写真=AFP/アフロ)

 イランの大学生、マフバシュさんは毎晩10時になると6階にある自室の窓を開け、叫び始める。「女性、命、自由!」と繰り返すと、近所からも唱和する声が聞こえてくる。イランの神権政治に抗議するそのスローガンはすぐに、地上の治安部隊の頭上を越え、街区から街区へと伝わり、首都テヘラン中へと広がっていく。

 抗議の声を上げる人々の中には、身元が分からないよう顔を覆っている人もいる。電灯を消して叫ぶ人も多い。そして大半が女性の声だ。ペルシャには「不公正に流された血は、最後の時まで煮えたぎる」という古いことわざがある。そのことわざが今、復活している。

 約1カ月前、髪を出し過ぎているとして風紀警察に拘束されたマフサ・アミニさん(22歳)が死亡した。それをきっかけに、一斉に抗議デモが始まった。以後、現在に至るまで、イランの最高指導者らは秩序の維持に苦慮している。抗議活動は全国に広がり、幾つかのバザール(市場)や石油精製施設ではストライキが発生した。

 国営ニュースメディアは当初、抗議活動を黙殺していたが、今では外国勢力による陰謀であると非難する。最高指導者らは国内を再び完全支配すべく、警察に加えてバシジを投入した。バシジはイデオロギーを奉じる民兵組織だ。事態を静観しているイラン国軍の忠誠心が試されるのはこれからだ。

デモ対応は革命防衛隊へ

 9月16日に抗議デモが始まった時、政府は風紀警察を引き揚げさせ、通常の警察に鎮圧を任せた。髪を覆うヒジャブを着用していない女性の頭を警棒で殴る警官もいた。ヒジャブを外す女性がさらに増えると、警察は武器を使うようになった。最初はスタンガン、その後は放水と催涙ガス。時にはエアライフルを使用するに及んだ。

 しかしこの対応は、女性たちを守ろうとする男性を抗議デモに加えただけだった。警官を隊列から引きずり出し、足で蹴るデモ参加者もいた。幾つかの町では、警官たちが降り注ぐ投石から逃げ惑う光景も見られた。

 内務省が管轄する警察が恥をさらしたため、最高指導者らは次第にバシジへの依存を強めていった。バシジは警察とは違い、最高指導者直属のイラン革命防衛隊の傘下にある。平服の隊員もいれば、黒い服や戦闘服を着てバイクに乗り警戒に当たる隊員もいる。拳銃を携帯する隊員も多く、マシンガンを持つ者さえ増えてきた。

 革命防衛隊には情報部門もあり、活動を疑われる者の家を突然捜索し、電話を押収したり、逮捕したりする。また、反体制派の活動についての情報を密告するよう促すメールも広く配信した。

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