イーロン・マスク氏によるツイッター買収劇が、大詰めにさしかかっている。どんな結末に至るにせよ、この買収案は、失敗に終わった過去の買収に似た特徴を示しているという。買収側の自信過剰、粗雑な資金計画、市場環境の悪化、対象事業が専門外、などの特徴だ。

マスク氏によるツイッター買収劇の先行きは(写真=AFP/アフロ)
マスク氏によるツイッター買収劇の先行きは(写真=AFP/アフロ)

 トルストイは「幸福な家庭はどれも似ているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」と書いた。しかし企業買収の場合は逆に、幸福な結末に至る理由は様々で、不幸に終わる買収がどれもよく似ている。

 とりわけ、業績が絶好調な時に行う買収は失敗しがちだ。過剰な自信が暴走し、膨れ上がった市場時価総額のせいで買収額が高めになり、かなり極端な構想でさえ実現可能に思えてしまう。イーロン・マスク氏が強引に進めるツイッター買収も、その範ちゅうに入る。

 この買収交渉は両者の主張の違いから行き詰まっていたが、当件の訴訟を担当する判事が、10月28日まで時間的猶予を与えたため、合意に至る可能性が再び見えてきた。

 マスク氏は、これは「万能アプリ」への第一歩だと主張。買収を正当化しようとしている。しかしこの買収は、後に大失敗だったと評されるようになるかもしれない。

 大失敗に終わった買収の例は、過去にいくつもある。1989年には日本のソニーが米映画会社コロンビア・ピクチャーズを買収した。この時ソニーの経営者らは、自分たちは無敵だと考えていた。バブル経済の中、どれほど高額であろうとこの買収には価値があると思われていたのだ。ハードウエア(消費者向け機器)とソフトウエア(娯楽コンテンツ)との融合という夢のような構想も描いていた。だが、思うようにはいかなかった。

自信過剰で粗雑な資金計画

 2000年、ドットコム・バブルの最盛期に米インターネット大手AOLが発表した米メディア大手タイム・ワーナーの買収は、それ以上の混乱を招いた。AOLは頭角を現したばかり。片や老舗のタイム・ワーナーは勢いを失っていた。両経営陣は、合併によりインターネット時代の巨人となることを夢見た。しかしバブルが崩壊すると、新会社はほんの数カ月で時価総額を2000億ドル近く減らした。

 07年には、英大手銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)が他社と共同で、オランダの大手銀ABNアムロを買収した。史上最高額での銀行買収だった。だがこの買収は、世界が大不況の瀬戸際にあったにもかかわらず、適切なかじ取り役が不在のまま漫然と進められた。RBSは直後に破綻し、英国の税金によって救済された。

 マスク氏は裕福な個人としてツイッター買収を提案しているため、これらの前例とは異なる。ツイッターを、自身が経営する米電気自動車のテスラや米宇宙開発のスペースXと統合する計画は、知られている限りでは存在しない。幸いなことに。

 しかし、過去の失敗例によく見られる「標的の誤り、タイミングの誤り、買収価格の誤り」は、マスク氏のツイッター買収提案にも既に当てはまっているように見える。マスク氏が買収にこぎ着けるためにこれほど長くかかっている理由も、これらの誤りで説明できるだろう。

 両者に交渉期間を与えた先述の米デラウェア州衡平法裁判所の判事は、10月中に合意に達しなければ審理を再開し、裁定を下すと述べた。

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