ブラジルのボルソナロ現大統領とルラ元大統領が出馬した大統領選挙は決着がつかず、決選投票となった。左派のルラ氏が有利とみられるが、ボルソナロ氏は、負ければ結果を認めないとほのめかしている。議会選挙ではボルソナロ氏に同調する右派が躍進。ルラ氏が勝ってもブラジル政治は混迷が続きそうだ。

現職と元職の争いは決選投票にもつれ込んだ(写真=AFP/アフロ)
現職と元職の争いは決選投票にもつれ込んだ(写真=AFP/アフロ)

 10月2日に行われたブラジル大統領選挙は、左派の元大統領、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ候補にとって、残念な結果に終わった。支持者は、この選挙でルラ氏(同候補はそう呼ばれている)が過半数の票を得て当選を決められると期待していた。だが、世論調査の予想をはるかに超える接戦となり、上位2人の決選投票となったのだ。ルラ氏の得票率は48%。対する右派ポピュリスト(大衆迎合主義者)の現大統領、ジャイル・ボルソナロ氏は43%だった。決選投票は10月30日に行われる。

 今回の大統領選挙は、ブラジル国民がどちらの候補者をより嫌っていないか、という争いになった。

 ボルソナロ氏に対しては、新型コロナウイルス禍への対処を誤った、反対派に乱暴な攻撃をする、任期中の経済政策があまり成果を上げなかった、という批判が多い。一方、ルラ氏と同氏が所属する労働者党に対しては、政権与党時代の不況や、不正献金疑惑についての批判が多い。ルラ氏は収賄の罪で18カ月収監されたが、後にこの判決は覆された。

 大統領としてボルソナロ氏もルラ氏も望まないとする世論は、一時、38%に達した。しかし、他の候補が支持を集めることはなかった。

 ボルソナロ氏は決選投票に向け、流れは自分にあると感じている。大統領選挙と同日投票だった連邦議会選挙で、仲間の多くが当選した。人口が最も多いサンパウロ州では、世論調査の予測に反してルラ氏よりも多くの票を得た。世論調査に表れない「隠れ票」があったのだ。調査会社を信用しないボルソナロ氏の支持者が回答しなかったと思われる。

 経済が上向きなことも現大統領に有利に働いた可能性がある。かつて12%に達したインフレ率は、今は8.7%にとどまる。政府は今年、貧困層への現金給付や補助金に数十万ドルを注ぎ込んだ。それでも貧困層の半分以上はルラ氏に票を投じたのだが。

 ボルソナロ氏は投票日の夜に演説し、貧困層が「変化を望む」のは食料価格が高騰しているせいだが、「悪い方への変化もある」と訴えたいと述べた。さらに政府は、10月分の現金給付を1週間前倒しで支払うと発表した。つまり決選投票の前にだ。

 ボルソナロ氏は、激戦区のミナスジェライス州などで、新たな盟友を得た。同州の得票率は、ルラ氏が約48%、ボルソナロ氏が44%だった。しかし、同日投票の知事選挙で56%の票を得て再選された右派のロメウ・ゼマ氏が選挙後にボルソナロ氏支持を表明。州民の一部が支持候補を変える可能性がある。

決選投票はルラ氏が優位

 それでも、決選投票におけるルラ氏優位は動かない。2日の投票ではボルソナロ氏に約600万票の差をつけた。貧困層の多くは、2003~10年のルラ政権が、1次産品の価格高騰がもたらした恩恵を社会保障に回したことを覚えている。

 投票日の朝、サンベルナルド・ド・カンポで清掃員として働くロールジス・ヌニスさんは、元大統領が勝てば「また夢を見られる」と語った。サンパウロに近いこの工業都市は、ルラ氏が労働組合の指導者としてキャリアをスタートした場所だ。独フォルクスワーゲンの工場で働いていたヌニスさんの両親は、ルラ氏が金属加工労組を率いていた時期に中流の暮らしを営めるようになった。ヌニスさん自身の賃金も、ルラ政権下で上がった。

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