米バイデン政権が、自然資産の包括的な変動を数値化する「自然資本会計」の策定に乗り出した。環境対策などの政策立案に際して、GDPだけでなく、国の富全体の変化を踏まえようという動きだ。自然の財が持つ経済的価値を数値化するのは容易な仕事ではないが、成功すれば他の国々も追随するだろう。

米国において環境問題に対する関心は高い(写真=AP/アフロ)
米国において環境問題に対する関心は高い(写真=AP/アフロ)

 まっとうな企業なら、すべての資産と負債を毎年記載する貸借対照表がある。しかし、政府にはそれがない。多くの政策の手引きとなるただ一つの数字、国内総生産(GDP)は、所得のフローを計上しているにすぎない。これでは計算の範囲が狭すぎると指摘する経済学者が増えている。環境対策を考える際は特にそうだ。しかし、自然資産の消耗が米国にもたらす経済的コストのすべてを計算する尺度は存在しない。

 バイデン政権は、この現状を変えようとしている。米政府は8月、15年後を見据えた一つの野心的な、しかし地道な環境対策を公表した。米科学技術政策局を中心に、10以上の米政府機関が「自然資本会計」の開発を目指す。米国が保有する天然資源の量的な変化を記録し、損失を数値化する。新たなデータを得て、GDPと並ぶ、国の資源の状況を測る一つの統計値を編み出す計画だ。

 試験的な数字は2023年にも算出される見込み。36年までには基本的な統計値として得られることになっている。きちんとした数字をはじき出すことで、成長と持続可能性のトレードオフを明らかにし、政策立案者や投資家に判断を誤らせないようにすることが期待される。

国の富の全体を数値化する

 だが、「自然資産変動(Change in Natural Asset Wealth)」と呼ばれるこの新指数の開発は、容易な仕事ではない。科学者はまず、水質汚染(通常は特定の汚染物質の濃度を測定)、土壌浸食(例えば、失われた土壌の量を測る)、湿地の劣化(減少した面積)など、環境保護に関わる事項の変化を測定することから始めなければならない。それを受けて金額を算定するのは経済学者の仕事だ。

 断片的に得られている既存のデータから、米国の天然資源は近年、価値を大きく減らしているとみられる。世界銀行は、一部の資産について、市場価格と入手可能性(および採取コスト)のデータを集め、価値の大きな変動を追跡している。それによると、10~18年の間に米国の森林とマングローブの価値は10%減少した。銅や鉄など10種類の鉱物の価値の減少幅は51%だった。

 また、非営利組織「ビー・インフォームド・パートナーシップ」によると、06年以降、養蜂家が飼育するミツバチの群れは毎年3分の1ずつ失われている。再生が追いつかず、ミツバチの個体数を維持できていないという。

 これらの自然資産は経済にも重要な意味を持つ。マングローブは嵐の時に防護壁の役割を果たす。花粉を媒介する生物は、人間が食べる食料の3分の1の生育に不可欠だ。銅がなければ、今日の技術では、電気自動車も風力発電機も作れない。

 一方、改善した面にも目を向ける必要がある。経済学者のニコラス・マラー氏は、米国の統計は、大気浄化法で空気がきれいになったことを考慮に入れていないため、所得の伸びを年3%低く見積もっていると指摘する。空気がきれいになれば労働者の健康問題が少なくなり、生産性が上昇し得るのだ。

 自然が国の富にどう寄与するかについて数字で分かりやすく示せるようになれば、自然を保護する経済的論拠も強化されるはずだ。

 環境経済学者は1970年代から自然の財や「生態系サービス」、つまり自然がもたらす恵みの価値を計算するために、独創的な公式を考案してきた。木材のようにスポット市場で取引される資源は、支払われる額で価値を測ることができる。