中国はかねて「人民元の国際化」を目指してきたが、流通規制をなかなか緩められず、国際化が進まない。海外流出や元売りに対する警戒が背景にあるが、デジタル人民元なら規制をかけながらの国際流通が可能となる。ドルでの資金調達が難しい国など、制約付きでもデジタル人民元を利用したいという途上国は多いだろう。

中国の主要都市では、デジタル人民元の実証実験が行われている(写真=Bloomberg/Getty Images)
中国の主要都市では、デジタル人民元の実証実験が行われている(写真=Bloomberg/Getty Images)

 中国は先日、台湾侵攻を想定した軍事演習を実施した。中国は台湾を自国の「反抗的な省」であると考えている。ナンシー・ペロシ米下院議長が8月に台湾を公式訪問して以降、中国のブロガーや専門家や政治家たちは、戦争の話題でもちきりだ。

 言うまでもなく、金融担当の官僚も紛争への備えを怠っていない。彼らは、米国とその同盟国がロシアの銀行に厳しい制裁を科し、そのうち7行が国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済システムから排除される様子を、はらはらしながら見守っていた。中国が台湾に侵攻すれば同様の措置が取られ、中国の銀行の海外における取引活動は凍結されるだろう。台湾を巡る軍事的な衝突ではどちらが勝つか分からないが、「金融戦争」に関しては、米国の勝利は確実だ。

 中国が貿易決済を米ドルに依存している点は、かねて中国政府にとって悩みの種だった。制裁に対して脆弱な上、米国のマクロ経済的な要因に振り回されやすい。世界最大の輸出国であり、融資国である中国が、世界最大の輸入国そして債務国である米国の通貨に大きく依存しなければならない構造はおかしいと、多くの中国政府関係者は感じている。

 中国は10年以上前から、人民元をドルに代わる国際通貨にすべく努力してきた。しかし、中国が抱く一つの懸念材料が、国際化の望みを阻んでいる(下のグラフ参照)。中国は、資本取引がコントロールできなくなる事態を避けたいと考えている。投機的な売買を抑えるため、人民元は国外への持ち出しを厳しく制限されている。それゆえ、世界においては使いづらい通貨となっている。

 人民元が近々ドルに代わって選ばれる基軸通貨になると考える銀行家はほぼいない。しかし、中国にとって価値があるのは、人民元がドルに取って代わることだけではない。それよりも実現しやすい上にかつ、かなえたい目標もある。

 特に中国のテクノクラートは、貿易の相手国が使いやすく、米国が取引を妨害してこない決済システムを構築しようと懸命だ。そのようなシステムなら、中国国内での資本規制を続けたまま、海外でも人民元の影響力を高められると考えているかもしれない。