半導体最大手エヌビディアが四半期決算で大幅減益を発表し、売上高予測も下方修正した。新型コロナ禍の余波で半導体需給が乱れたことに加え、同社のGPUが使われる仮想通貨の状況も影響した。しかしAI処理や自動運転向けの半導体に注力する同社は動じず、巻き返しに自信を見せる。

エヌビディアのファン氏は逆境に鍛えられた(写真=ロイター/アフロ)
エヌビディアのファン氏は逆境に鍛えられた(写真=ロイター/アフロ)

 米半導体最大手エヌビディアの創業者ジェンスン・ファン氏は、文字通り逆境に鍛えられた。同氏が米ケンタッキー州の寄宿学校に入れられた時、台湾人の家族たちは、そこが問題児のための学校であると知らなかった。同室の少年は顔に刃物傷があり、刑務所から出たばかりだった。いじめられたくなければトイレ掃除をしろと言われる日もあった。

 しかしファン氏は、重圧に押しつぶされるどころか、苦難に耐えることを学んだという。半導体業界という需給の波が激しい世界で、これは非常に有用な資質だ。

 半導体業界は再び混乱の中にある。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが落ち着きを見せ始めた2021年の後半には、自動車会社から仮想通貨の「採掘者」(マイナー)まで、ほとんど誰もが半導体を入手できなくなった。

 半導体メーカーは製造能力の増強に資金を注ぎ込み続けた。資本支出はパンデミック前と比べて6カ月で75%近く跳ね上がったと、英調査会社フューチャー・ホライゾンズのマルコム・ペン氏は言う。半導体生産はリードタイムが長く、新設備の多くはいまだ建設中だ。

 しかし、その間にインフレと経済の減速、中国のロックダウン、仮想通貨の価値下落で、半導体需要は縮小。コンピューターやスマホの販売も減速した。その結果、半導体は1年前の不足と同程度の規模で供給過剰となり、多くのメーカーの利益に打撃を与えた。

 米インテルに代わり、市場時価総額で米国最大の半導体企業となったエヌビディアも例外ではない。同社は8月24日、5~7月期決算の大幅減益を報告。同時に売上高予測を下方修正した。修正は5月以降3度目だ。同社の時価総額は、21年末のピーク時には8000億ドルを超えていたが、今では4000億ドル(約57兆円)を割り込む。

 ファン氏は、いつも通り楽観的だ。同氏は業績発表の後、来年の上半期までには、データセンターやゲーミング向けの素晴らしい新アーキテクチャーで巻き返せるだろうと語った。データセンターとゲーミング向け半導体は同社の2本柱だ。

 同氏は独自の視点から、この驚異的な新モデルが人工知能(AI)の在り方やメタバースのような漠然とした概念を一変させると考えている。しかし、業界を取り巻く冷酷な現実を同氏が過小評価している危険性はないだろうか。

イーサリアムの変動が影響

 短期的な売り買いをする投資家にとり、危険は明らかに存在する。特に仮想通貨の状況が悪化する可能性がある。仮想通貨の中で2番目に普及しているイーサリアムの採掘(マイニング)には、主にゲーム向けに設計された同社のGPU(画像処理半導体)が使われる。エヌビディアは以前から、この問題を軽視してきた。同社の売上高が前回、19年末に急落した主因は、イーサリアム価格の下落だった。同社はそのリスクを、うかつにも過小評価していたのだ。

 この時の下落は短期的で、数カ月後にパンデミックが始まる頃には高騰した。それがエヌビディアの株価回復を後押しし、ついに同社株は最高値を付けた。

 米ウェドブッシュ証券のアナリスト、マット・ブライソン氏は、最盛期にはゲーミング向けGPUの売上高の20~25%ほどが仮想通貨の採掘用だったのではないかと語る。エヌビディアが仮想通貨の世界との関係をどれほど認めたがらなくとも、この偶然生じた関係が同社の利益に大きく貢献したことは間違いない。