米国と中国が衝突するのは、覇権争いの結果ではなく、中国が自国の衰退を恐れるせいだとする見方がある。米軍の関係者は「現在の軍備拡充ペースは遅すぎる」と見ており、米国議会も予算獲得を後押しする。衝突は、軍事バランスよりも政治的なきっかけで起こり得る。今後数年の政治日程が焦点になる。

バイデン大統領は中国を「重大な競争相手」とみなす(写真=代表撮影/AFP/アフロ)
バイデン大統領は中国を「重大な競争相手」とみなす(写真=代表撮影/AFP/アフロ)

 米国と中国が最大の開戦危機に直面するのは、どのタイミングになるだろうか。中国共産党指導部が「中華民族の偉大なる復興」と「世界一流の軍隊」の実現を約束した2049年ごろか。「国防および軍隊の現代化を基本的に完了する」ことを目指すとした35年か。それとも、米軍幹部が「中国が台湾武力統一の手立てを整えることを目指す」とみる27年か。

 米ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ氏と米タフツ大学のマイケル・ベックリー氏は、危険が差し迫っているのは今だと論じる。米中の覇権争いを「100年マラソン」と表現する人もいるが、両氏の近著『デンジャー・ゾーン:来たるべき中国との紛争』(未邦訳)は、両大国の争いは10年の短距離走だと指摘する。

 中国は「転倒」寸前か、既に遅れ始めているかもしれないと両氏は示唆する。それにより、危険は遠ざかるのではなく、むしろ増すという。中国は近い将来、まだその力があるうちに、台湾の強制的な統一に乗り出す可能性がある。

 こうして両氏は、米ハーバード大学教授のグレアム・アリソン氏が広めた「トゥキディデスの罠(わな)」説をひっくり返す。この説は、古代ギリシャで台頭する都市国家アテナイと、それを脅威と感じたスパルタが衝突したように、中国と米国も戦争に向かう運命にあるとする。しかしブランズ氏とベックリー氏は、当時のアテナイはもはや新興勢力ではなく大国であり、自国の衰退を避けるべく戦ったのだと論じる。

 こうした「ピーキングパワー(峠を越えつつある強国)の罠」の一例が、帝国主義時代の日本だ。日本は経済的に窒息状態となるのを恐れ、1941年に突然、真珠湾を攻撃した。

 ①中国の国力がピークを迎え、②戦争が迫っている──という2つの主張に対しては反論もある。しかし、ワシントンには確かにこの主張のように考える風潮が存在する。

中国の「転倒」はない

 専門家は、中国の減速が「中所得国の罠」(途上国がある程度発展すると以後の成長に苦労する)によるものかを議論している。彼らはまた、米中間で高まる敵意や台湾周辺の軍事的緊張についても懸念する。

 中国の意図は米国の政策に影響するため、その分析は重要だ。米戦略国際問題研究所のジュード・ブランシェット氏は「中国はバーにいる酔っぱらいにすぎないのか、それともウイスキーをなめながら相手に邪悪な目を向けるマフィアのボスなのか」と問いかける。「中国を短期的な脅威と考えるなら、国際秩序を巡る競争は忘れ、軍事的に中国を抑えることに全力を傾けることになる」

 多くの専門家は、中国の崩壊を予測し、大恥をかいた。それでもブランズ氏とベックリー氏は、中国に驚異的な成長をもたらした要因のいくつかは反転しつつあると指摘する。

 急増した人口は急減に転じた。市場改革への動きは、再び中央統制経済に取って代わられた。政府はイノベーションを生み出すテック企業を抑え込み、債務管理に苦労している。政治的支配をやや緩めた「賢明な独裁」は圧制的な独裁へと逆戻りし、技術を使って社会を監視する国家を生んだ。また、先進国は中国の台頭を喜ばず、貿易を制限し始めた。

 トーマス・オーリック氏など一部の経済学者は、中国の支配者は十分な資源と、規制手段と、システミックな危機を回避する経験を持ち合わせていると論じる。中国経済に関する同氏の著書『中国経済の謎──なぜバブルは弾けないのか?』は、近く新版が発行される。