不動産価格の上昇は、短期的には経済を上向かせるも、長期的には悪影響を及ぼすとする研究が相次いでいる。担保価値が上昇するとローンも膨らむため、他の投資に資金が回りにくくなり、資本配分をゆがめてしまう。各国の政策当局は、こうした影響を勘案し、不動産の担保価値を抑えるなどの施策を講じる必要がありそうだ。

 土地に対する経済学者の関心は、時代とともに変化してきた。18~19世紀の政治経済学者にとって、土地は経済活動を理解する手掛かりだった。土地の所有権から生じる賃貸料の分配手法が、貧富の差や格差をはじめとするあらゆる経済問題を説明すると彼らは考えた。

 20世紀の経済学者は、土地をそれほど重視しなかった。しかし21世紀に入ると、彼らは土地の利用制限に代表される都市計画が、都市の経済活動や生産性に影響を与えることに気づき始め、議論を重ねるようになった。

 また、世界金融危機をきっかけに、不動産価格下落の影響についての研究が増えた。不動産価格が下落すると、銀行のバランスシートが悪化の傾向を示し、不安を抱いた住宅所有者が支出を減らし、景気後退の引き金となる可能性があることが解明された。とりわけ2007~09年の米国の住宅価格暴落についてはずいぶん研究が進んだ。

 そして最近は、別の視点からの研究が出始めている。土地価格の高騰が、融資や投資、さらには経済活動の動きや生産性にどう影響するか、というものだ。中国の長期的な不動産ブームに焦点を当てた研究も多い。

 これらの研究から得られる結論、そして懸念すべき点は、不動産価格の高騰は投資余力を奪うとともに資金効率を低下させ、資本配分を不適切にするということ。経済に与えるダメージも大きい。長期的に見ると、土地価格の上昇が生産性の伸び率の鈍化をすでに引き起こしている可能性がある。

資本配分をゆがめる

 不動産は世界の資産の中で最も大きな部分を占める。20年には世界の非金融資産(工場や機械設備のほか、知的財産など無形の資産も含む)の約68%が不動産だった。土地とその上に建つ建造物に分けると、68%のうち土地のほうが半分よりやや多い。 地価の上昇により、非金融資産の中で土地が占める割合が急上昇した国もある(ただし、このデータを公開している国はごくわずかだ)。例えば英国では、この割合が1995年の39%から2020年には56%に達した。

 土地は価値評価が容易で、隠したり壊したりもできないため、借り入れ担保として適している。そのため、土地価格が上昇すると、最初は貸し付けが増え、経済活動が上向く。実際、多くの場所で過去数十年間、そのような効果が見られた。家計は、不動産価値の上昇を利用して、不動産価値が変わらなかった場合よりも低利で借り入れができる。土地を所有する企業も同様に、容易に融資を受けられる。保有資産が増えれば、支出にも積極的になる。

 しかし、土地を担保とすることには悪影響も伴う。特に、企業の資金調達に銀行が大きな役割を果たしている場合は悪影響が大きい。企業の借入能力は、潜在的な生産力よりも保有している資産に左右される傾向がある。土地を持っている企業は、無形資産をたくさん持つ企業よりも、銀行から融資を受けやすいのだ。

 国際決済銀行(BIS)のセバスチャン・デーア氏が18年に発表した論文によると、米国の上場企業では、不動産担保を多く保有している企業のほうが競合他社よりも、多くの資金を借り入れて投資することができていた。たとえ生産性で競合よりも劣っていたとしても、だ。

 同様の動きが世界金融危機直前のスペインでもはっきりと見られた。バルセロナ大学のセルジ・バスコ氏とスペイン銀行のダビド・ロペス=ロドリゲス氏、エンリケ・モラール=ベニート氏が21年に発表した研究は、03~07年の住宅建設ブームの期間、不動産を所有するスペインの製造業企業はほかの企業よりも銀行から融資を多く受ける傾向があったと指摘している。