米国に流入する移民の数がトランプ政策と新型コロナの影響で減少し、労働力不足の一因となっている。高齢化が進む米国では、移民を増やさない限り労働人口は増加しないが、政府はこの問題を放置してきた。米国政治は不法移民問題ばかりに目を向け、合法的に移民労働力を確保する方策が取れずにいる。
この4カ月、米国の権力の中枢ともいえる、連邦議会議事堂からわずか数百メートルの場所に毎日のようにバスが到着している。中から降り立つのは、保護を求める移民たちだ。これまでに6000人以上の移民が、アリゾナ州およびテキサス州からバスに乗せられ、ワシントンに送り込まれた。彼らをあえて首都に送還するよう指示したのは州知事たちだ。こうした「奇策」に出たのは、ジョー・バイデン大統領が打ち出した移民政策への抗議にほかならない。

メキシコからの不法入国者をどう扱うかの問題は、何十年も前から続いており、今回の騒ぎはその最新事例といえる。国境の危機管理問題は常にメディアをにぎわせ、移民政策論争の焦点になってきた。
しかし他方で、まったく逆の意味での火種がくすぶり始めている。米国に流入する移民数の減少だ。移民全体の人口が減り過ぎたため、企業はすでに働き手を見つけるのが難しくなり始めている。
労働力不足はこれまで以上に経済を損なう危険性がある。だが、不法入国の問題が常に議論されてきた一方で、移民全体の減少が議会で問題にされることはほぼなかった。
2020年7月から21年7月までの移民の純増数、つまり、合法違法を問わず米国に入国した移民数から出国した移民数を引いた数は、24万7000人。過去30年で最少の数字で、30年間の年平均の3分の1以下だった。減少の大きな理由は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)だ。米国は何十もの国からの入国を制限し、世界中で領事館を閉鎖して、多くのビザ申請を凍結した。
しかし、移民数の減少は新型コロナ以前から始まっていた。ドナルド・トランプ前大統領の就任1年目の17年から、移民の純増数は減少傾向にあった。話題になった一部のイスラム圏国からの入国制限がトランプ政権の基本姿勢を示すが、何より重要なのは、移民手続きに面接を加えたり手数料を上げたりしたため、申請がしにくくなったことだ。
移民なしでは労働人口減少
移民の出国も純増数が減少した一因だ。米国で暮らすメキシコ人の数は15年前をピークに減少に転じた。年老いた移民の多くが帰国しているのだ。実際、メキシコ国境を巡る騒動とは裏腹に、米国の不法移民の推定数は、07年の1220万人から20年には1000万人程度へと減少した。
労働市場で移民の働き手が不足していることは明らかだ。カリフォルニア大学デービス校のジョバンニ・ペリ氏とリーム・ザイアー氏の推定によると、生産年齢の移民人口は、10年以降の傾向から予測される数に対し、22年2月時点では約180万人少なかった。移民労働者の比率が高い産業ほど人手不足が著しい。そして、移民労働者が占める割合と、求められる仕事の技能レベルに相関は見られない。
外食・ホテル業界の従業員は4分の1が外国生まれだ。この業界では21年に、求人の約15%が埋まらなかった。専門的な業務サービスの分野では、労働者の5人に1人が外国生まれで、建築図面を描いたり納税書類を作成したりと、様々な仕事をこなしている。こちらも21年に、求人数のおよそ10%が埋まらなかった。
人手不足は賃金の引き上げにつながりやすい。とりわけ、足元の低所得者層の賃金は急激に上昇している。
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