ベラルーシの反体制派の人々が部隊を編成し、ウクライナでロシア軍を相手に戦っている。ルカシェンコ大統領の弾圧を逃れポーランドなどで暮らしていた、軍隊経験のない普通の人々だ。ベラルーシ人がウクライナで信頼を得るのは難しい。ベラルーシ国民は微妙な立場にある。

正面にはロシア軍。背後に控えるのもロシア軍。まるで戦争に「おまえはここで何をしているのか?」と問いかけられている気がした──そう話してくれたのは、ベラルーシ人兵士のアレクサンドル・ナウコビッチ氏(33歳)だ。同氏はベラルーシ人反体制派の寄せ集め部隊に参加しウクライナのために戦っている。
ナウコビッチ氏に話を聞いた頃まで、部隊は幸運に恵まれていた。最初の4カ月間、戦闘の犠牲者は数人だった。ところが最近、悪い知らせが聞こえてくる。部隊のカリスマ指導者だったイバン・マルチュク氏が、ドンバス地方のリシチャンシク近郊でロシア軍戦車の侵攻を阻止する作戦の後、亡くなった。2人がロシア軍に捕らえられ、3人が戦闘中に行方不明になったという。
逃亡先のポーランドから
今年の初め、子ども相手のエンターテイナーだったナウコビッチ氏はポーランドで暮らしていた。ベラルーシの多くの反体制派と同じく、2020年の選挙で独裁的なアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が再選を果たした後、ポーランドに逃げてきたのだ。同大統領は、不正な手段で選挙に勝利し、それに抗議した人々をまとめて拘束した上で拷問を加え、反対運動を押しつぶした。
ポーランドでの新しい暮らしは、やや退屈であったものの快適で安全だった。しかし、戦争が始まり、すべてが変わった。恥じ入る気持ちと罪悪感が身体を駆け巡った。ロシア軍の戦車や飛行機、ミサイルが、祖国ベラルーシを拠点にウクライナを襲い、人々の命を奪っている。それはひとえに、自分のような人間がルカシェンコ大統領を引きずり下ろせなかったからだ──。
ナウコビッチ氏は軍隊経験を持たない。だが彼の本能は、行くべきだと告げていた。そこで荷物をリュックに詰め、国境に向かった。
しかし、ベラルーシ人のこの気持ちは、ウクライナの国境警備の係官には理解されなかった。「入国目的は」と、係官は皮肉な笑みを隠そうともせずに尋ねた。「ウクライナのために戦おうと思って来ました」と答えると、厳しい言葉が返された。「ベラルーシ人は入れません。侵略の共犯者ですから」。いくら自分は違うと誓っても、懇願しても、理屈を並べても、係官の判断は変わらなかった。
ナウコビッチ氏はうちひしがれ、この体験をインスタグラムに書き込んだ。すると返信で、自分のような者のための部隊が編成されていることを知った。同氏はこの部隊に志願し、3月6日、同じ思いのベラルーシ人で満員のバスに乗り、意気揚々と国境を越えてウクライナ入りした。
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