大統領(当時)が国外に逃亡したスリランカは、多額の対外債務を負い、経済が崩壊している。燃料の輸入もままならず、物価は急騰。商業活動も市民生活も停止寸前だ。苦しむ国民は前大統領一族による失政を非難する。コロンボ港に近い市場からの現地リポート。

ガソリンスタンドの前には自動車やバイクが長蛇の列(写真=AP/アフロ)
ガソリンスタンドの前には自動車やバイクが長蛇の列(写真=AP/アフロ)

 スリランカの最大都市コロンボのペター市場で、ナジルさん(50歳)は荷車を引いて働いている。この国の経済が崩壊する前は、市場の狭い路地で一日中、日に焼かれながら、反物や、山ほどのココナツ、袋に詰まったニンニクなどを運んでいた。

 今、ナジルさんは、黒の野球帽にTシャツとグレーのズボンという格好で、何十台も並ぶ空の荷車の前で手持ち無沙汰に座り込み、携帯電話で誰かの演説を聴いている。突然、彼は音量を上げ、画面を指さした。演説者が「アラガラヤ!」と叫んだ。スリランカの大衆抗議運動を意味する言葉だ。

 この運動の結果、スリランカのゴタバヤ・ラジャパクサ大統領(当時)は7月中旬、辞任に追い込まれた。

 以前は、うまくいけば1日に8ドル(約1100円)程度は稼ぐことができた。6人家族がなんとか食べていける額だ。ナジルさんが一家の家計を支えている。

 「今では商売あがったりだ」とナジルさんは嘆く。今日、この後仕事がなければ、ポケットに1ドル(約136円)もないまま家路に就くことになる。

 スリランカ経済が崩壊した責任は、ラジャパクサ大統領にあるとされてきた。抗議運動がこの島国を揺るがす中、同氏は軍用機でモルディブに脱出。その後シンガポールに逃亡した。

 ラジャパクサ大統領は、中国が支援するインフラプロジェクトを多額の借り入れをして推進する一方、化学肥料の輸入禁止など常軌を逸した政策を次々と取った。国民は、このような大統領に激しい怒りを向け、抗議行動を起こした。

 一貫性のない経済運営に加え、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)による観光業収入の落ち込みとウクライナの戦争が追い打ちをかけた。スリランカはデフォルト(債務不履行)に陥り、通貨は暴落した。

 スリランカの対外債務残高は510億ドル(約7兆円)に達する。その半分強が、中国を含む2国間または多国間の貸し付けによるものだ。

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