ジョンソン英首相の辞任発表を受け、英保守党は党首選を開始した。最後は全党員による決選投票で決まる。しかし、たとえ一部とはいえ有権者の直接投票で首相が決まるこの形では、首相の立場が大統領的になる。国民の多数派が支持しない首相が生まれる可能性もあり、議会制民主主義に反すると英エコノミスト誌は主張する。

ジョンソン英首相の辞任を受けて、保守党党首選が進む(写真=AFP/アフロ)
ジョンソン英首相の辞任を受けて、保守党党首選が進む(写真=AFP/アフロ)

 英国の現首相ボリス・ジョンソン氏は、英国初の大統領を自称してもいい。2019年に同氏を首相官邸に送り込んだのは、英国議会の議員たちではなく、英保守党党員のうち9万2153人の支持票だったからだ。

 今、ジョンソン氏の歴史上の評価を巡る議論が始まった。しかし、同氏が、ほんの一握りとはいえ有権者による直接の投票で就任が決定した初の英国首相であったという事実が言及されることはほぼない。

 7月7日にジョンソン氏が辞任の意向を発表した後、保守党は後継党首選びに、これまで通りの方法を採用した。01年以降に用いられてきたその方法は、保守党の下院議員が候補者を2人に絞り、どちらを党首に選ぶか、党員18万人の決選投票に委ねる。たとえそれが、そのまま英国の首相を選ぶことになるとしてもだ。

 このやり方には、首相の役割を「不健全な」大統領の役割に変質させる危険がある。

 「疑似」大統領選の選挙運動は、7月から8月にかけて続く。2人の保守党党首候補は英国中を遊説し、自ら党員となったわずかな数の有権者に向けて自分への投票を訴える。スローガンを連呼し、互いをけなし合い、演壇で対決する。他国の大統領選挙と同じだ。

 昔は投票権を持つのは有産階級の男性に限られていたが、今日は、25ポンド(約4100円)を払って保守党員になった人が票を投じる。環境保護団体ナショナル・トラストの会員になるようなものだ。ナショナル・トラストの会員は歴史的建造物を無料で見学できる。保守党員になれば数年ごとに首相を選べるかもしれない。

国民の審判を経ない首相

 問題は有権者の側にあるのではない。保守党議員の多くは、党員たちの考えが偏り過ぎていると考えている。ありがたいことに、それは誤りだ。確かに保守党員は、有権者全体に比べて年齢層が高く、裕福で、男性が多い。しかし、政治的な意見は、ごく普通の中道右派とほぼ同じだ。

 ある調査によると、保守党員は、法と秩序の観点では保守党議員たちよりもやや右寄りで、経済については典型的な保守党議員よりもやや左寄りだという。しかし、党員はけっして「貧乏人は切り捨てろ」というプラカードを掲げるような過激な思想の持ち主ではない。

 また、議員だけが賢明なわけでもない。賢明さを欠く議員も多い。16年にテリーザ・メイ氏が党首に立候補した時、ほかの候補がドタバタ劇の末に次々と辞退し、対立候補が1人もいなくなった。そのため党員投票の必要もなくなり、メイ氏が自動的に党首に選ばれた。それから1年足らずで実施された総選挙で、メイ氏の保守党は単独過半数を失った。

 テムズ河畔に建つネオ・ゴシック様式の議事堂の中にいたのでは、有権者の気分を推し測るのは難しい。むしろ保守党の一般党員たちのほうがものが見えている。05年の野党時代にデービッド・キャメロン氏を党首に選んだのは先見の明があった。キャメロン氏は、社会的にリベラルで型にとらわれない保守主義を掲げ、労働党が言葉巧みに進める管理統制主義に対抗してみせた。