米最高裁判所が、米環境保護庁には発電所の炭素排出量を規制する権限がないとの判断を示した。気候変動対策を公約に掲げる米バイデン政権にとり、大きな痛手だ。保守派の判事が多数を占める米最高裁は、確定していた過去の判例を次々と覆している。

気候変動対策を重視するバイデン大統領は大きな後退を余儀なくされる(写真=AFP/アフロ)
気候変動対策を重視するバイデン大統領は大きな後退を余儀なくされる(写真=AFP/アフロ)

 米連邦最高裁判所は6月30日、米国の気候変動対策に関して重大な判断を示した。米国の連邦政府で環境規制をつかさどる環境保護庁(EPA)は、発電所が排出する温室効果ガスを規制する権限を持たないとする判断だ。気候変動との戦いを掲げるジョー・バイデン政権にとり、大きな打撃となる。

 最高裁長官であるジョン・ロバーツ首席判事が執筆した多数派意見は、EPAが1970年に設立された際に、米国議会は同局に炭素排出量の削減権限を明確に与えてはいないとした。最高裁の9人の判事は、6対3でこの意見を支持した。

 この結果バイデン政権は、排出量削減規制を導入するため、議会で法律を成立させる必要が生じる。

 保守派の判事による多数派意見は「これほど重大な結果をもたらす判断は、議会が自ら下す」ものであるとする。「石炭による発電をどの程度に」すべきかという問題を、「何らかの行政機関に」委嘱する意図が当時の議会にあったか疑わしいと、多数派意見は述べている。

 この最高裁判断は、気候変動との戦いを掲げて当選したバイデン大統領にとって、大きな後退を意味する。同大統領は2030年代半ばまでに米国の電力部門で脱炭素化を達成することを目指し、最終的に米国の炭素排出量を実質ゼロにすると公約している。しかし現在、同政権が推す気候変動対策法案の審議は議会で行き詰まっている。

 バイデン大統領は判決を受け、自らの権限を用いて気候危機に取り組む意思は「揺るがない」と述べた。また、「私の法務チームに、司法省および関係機関と協力して、今回の裁判所の判断を慎重に見直し、気候変動をもたらす汚染を含む有害な汚染から米国民を連邦法の下で今後も守り続けられる方法を探るよう指示した」との声明を発表した。

 一方、最高裁のエリーナ・ケーガン判事が執筆し、他の2人のリベラル派判事が支持した反対意見は、国民に有害な汚染物質の「固定的な発生源」を規制する権限がEPAにはあるとしている。

リベラル派のケーガン判事は反対意見を執筆した(写真=ロイター/アフロ)
リベラル派のケーガン判事は反対意見を執筆した(写真=ロイター/アフロ)

 温室効果ガスの排出量削減は「気候変動に取り組むいかなる有効なアプローチにも必要不可欠な部分である。多数派意見がEPAの権限に課そうとしている制限は、議会が成立させた法律を無視するものだ」と、ケーガン判事は書いている。

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