フランス国民議会選挙での与党の過半数割れは、マクロン大統領自身が招いた結果だ。強権的な姿勢を続ければ反発は強まる。法案ごとに野党の協力を求めることも難しいだろう。2期目のマクロン大統領は、もっとオープンな政治スタイルに改める必要がある。

与党が議会で過半数を失い、政権運営に暗雲(写真=AFP/アフロ)
与党が議会で過半数を失い、政権運営に暗雲(写真=AFP/アフロ)

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、その強権的な姿勢から、天界を支配するローマ神話の神ユピテル(ジュピター)に例えられてきた。だが、今はむしろ、天から墜落したイカロスに近い。

 6月19日に行われたフランス国民議会選挙で、有権者は、当選したばかりの大統領が率いる与党に過半数の議席を与えなかった。ここ30年以上見られなかった異常な事態だ。少数与党では統治がまったく不可能というわけではないが、マクロン大統領は今後5年間、何をするにも、議会で必要な票を努力してかき集めることになる。

 これはフランスにとってだけでなく、欧州にとっても悪い知らせだ。欧州は世界をリードする指導者を欠いている。2021年末にドイツのアンゲラ・メルケル首相が政界を引退し、メルケル後の欧州大陸の変革を望んでいたマクロン大統領が、今度は、自国内に秩序らしきものを維持することだけで手いっぱいになってしまうのだ。

 この選挙結果は驚きをもって受け止められたが、実は驚くべきことではなかった。4月の大統領選挙の第1回投票では、有権者の半数強が、極右か極左の候補に投票していた。決選投票ではその票の多くがマクロン大統領に流れ、国民連合(RN)のポピュリズム(大衆迎合主義)的指導者、マリーヌ・ルペン候補に圧勝することができた。

 しかし、この大勝で見えにくくなった事実がある。マクロン大統領には熱心な支持者は少なく、多くの国民に嫌われているという事実だ。保守的なテクノクラートであるマクロン大統領は、「金持ちの大統領」というレッテルを振り払えていなかった。大統領選の第1回投票の得票率は、実際、28%しかなかったのだから。

 フランス国民はマクロン大統領に再選を許した。しかし同時に、権限の多くを奪い取る決断を下した。マクロン大統領が、これまでと違うやり方をする必要があることは明らかだ。

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