米国と西側同盟国は、中国人民解放軍が世界に戦略的基地網を構築する計画を進めているとの懸念を抱く。だが実際に中国が進めるのは、国有企業が海外に保有する港湾施設を軍が共用する形での拠点網の構築だ。人民解放軍自体は専用基地を望んでいる。中国の今後の動きへの疑念は捨てきれない。
カンボジアのティア・バン国防相は、6月にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)の席上、欧米の国防・外交関係者に向け、中国はカンボジア国内に軍事基地など建設していないと懸命に訴えた。中国政府も同様に、中国人民解放軍は世界に基地網を展開する意図はないと主張する。
しかし、米国やその同盟国は疑いを抱く。米国務省の高官、デレク・ショレ氏は、カンボジアのタイ湾沿岸にあるリアムに中国が基地を建設中であることを、米国政府は「確信」していると述べた。「中国が軍専用の施設を手に入れようと努力している兆候が見つかっている」と、ショレ氏はインタビューで語った。
この1年の間、中国が新たな軍事基地を計画しているとする警報が、数カ月ごとに米国と同盟国の間で鳴り響いた。しかし、矛盾して聞こえるだろうが、人民解放軍の世界展開に対する恐れと、多くの基地の建設などしていないとする中国の主張は、どちらも正しいのかもしれない。
シャングリラ会合の数日前、バン国防相はリアム海軍基地改修の着工式に出席していた。工事の資金を出しているのは中国だ。
3月には中国がソロモン諸島と協議していた協定の草案の内容が報じられた。一部の欧米政府は、この協定がソロモン諸島に中国基地を建設する道を開くものと考える。
2021年には、中国に対して米国が別の疑念を抱いていることが報じられた。中国がアラブ首長国連邦(UAE)に秘密裏に軍事施設を建設している、赤道ギニアにも同様の施設を計画しているという疑念だ。
中国は、中国政府の意図に対するこうした懸念を否定する。しかし、人民解放軍は実際、拡大していく中国の国際的利益を守るためとして、重要な海上交易路に沿う「戦略支点」のネットワーク作りに着手している。
軍民共用インフラで対抗
中国の19年の国防白書は、人民解放軍の任務は貨物船の保護や海外に住む中国国民の避難も含み、軍は「海外の兵たん能力」を高めていく、と記した。
しかし人民解放軍は、軍事専用基地を世界中に何百カ所も有する米軍と違い、海外で使用する施設をほぼ、中国国有企業が所有または運営する港湾に頼っている。
米海軍大学校中国海事研究所のアイザック・カードン助教授は、次のように説明する。「たとえカンボジアとUAEと赤道ギニア(の基地)がすべて数年以内に稼働し始めたとしても、米国が持つような国際基地網の構築に人民解放軍が向かっていることにはならない。
米国は世界大戦を戦い、冷戦下でその地位を維持してきた。中国は(米国と異なり)海外での軍事的プレゼンスを築き始めたばかりで、そのために自らが世界に持つ経済的足場を活用しようとしている」
カードン助教授らが4月に公表した報告書によると、中国企業が少なくとも1つの港湾ターミナルを所有または運用する港は、世界53カ国に96カ所ある。この港湾インフラのネットワークは、急速に人民解放軍の海洋作戦の柱となりつつある。
この報告書によれば、これらの港の3分の1で、人民解放軍海軍の艦船が補給や海軍外交を求めたという。艦船が保守整備を行った港が9カ所、所在国との合同演習のために寄港した港が69カ所、乾ドックで修理を行った港は47カ所に上る。
このような港湾インフラの軍民共用モデルにより、中国は海外での経済インフラの強みを生かして、米国の強力な同盟ネットワークに対抗しているのだ。
中国のある軍事研究者は「米国は同盟国の領土に基地を建設してきた。我々はブロックを作って相手方に対抗するやり方には反対なので、そのようなことをしない」と語った。この研究者は、この問題について論じる権限が与えられていないという理由で、匿名を求めた。
「我々のモデルは開発に焦点を当てている。海外でそうした開発を保護することは、今では軍の任務の一部となっている。その開発の成果をこの任務の達成のために利用することもできる」と、この研究者は続けた。
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