自動車業界は、EVへの移行や新型コロナによるサプライチェーンの混乱で、生産構造の変革を強いられている。大手各社が目指すのは、原材料から電池製造、製品販売まで垂直統合されたEV最大手テスラの在り方だ。EV部門を分社化し、車載ソフトと半導体設計を内製化するのがこれからのトレンドになりそうだ。

 テクノロジーと脱グローバル化の流れが世界経済の姿をいかに変えているかを見たければ、自動車業界に目を向けるのが一番だ。それは、今がガソリン車などの内燃機関車から電気自動車(EV)への過渡期だからという理由だけではない。自動車は事実上、車輪の付いたコンピューターになろうとしている。エンジンと共にコンピューターが車体を制御し、車を走らせている。加えて、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が自動車業界の複雑なグローバルサプライチェーンを混乱に陥れた。特に問題となったのが半導体だ。

 EV化、コンピューター化、そしてアフターコロナの新常態に適したサプライチェーンへと生まれ変わるべく、この巨大産業は数十年ぶりの大変革期にある。

 自動車メーカーは過去50年の間に、製造工程の多くを外注してきた。その代わり、社内では設計やサプライチェーンの管理、部品の組み立てに集中してきた。だが今は、EVの電池に使う金属から、EVを走らせるソフトウエア、販売店に至るまで、バリューチェーン全体に管理の範囲を広げようとしている。EV部門をIT(情報技術)系のスタートアップとして分社化しようとする動きもある。

 大手自動車メーカーによるバリューチェーン全体を管理しようとする動き、IT部門のスタートアップ化は、EVの絶対的王者、米テスラをまねる動きにほかならない。

 自動車業界では過去にも、米フォード・モーターが始めたベルトコンベヤー式の組み立てラインや、トヨタ自動車が開発した「ジャスト・イン・タイム」生産方式など、どこかがうまいやり方を始めると、競合がすぐに追随する動きがあった。同様に今回の「テスラ化」も、次の破壊的なイノベーションにつながるだろう。

ヘンリー・フォードに倣う

 すべてを自社で一貫生産するという考え方は古くもあり、新しくもある。テスラの製造システムは一見、シリコンバレーで言うところの「フルスタック」の考え方を取り入れたものにも見える。複数の技術を駆使してEV生産のすべてを内製化し、利益を独占する。独断専行型に物事を決めるテスラのCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク氏は自社のやり方を、自動車業界に限らずどの業界に照らしても「非常識なほど垂直統合している」と語っている。

 しかし実際、マスク氏のやり方は自動車業界の過去から学んでいる部分が大きい。ヘンリー・フォードは原材料の多くを自社で調達した。タイヤ用のゴムや車台用の鋼鉄のために、農園や製鉄所を傘下に置いた。デトロイトにあるフォードのリバー・ルージュ工場は、フォードの鉱山で採掘した石炭で稼働していた。

 テスラも最近、かつてのフォードを思わせる動きで、リチウム採掘業者や黒鉛のサプライヤーと契約し、5月にはブラジルの資源大手ヴァーレとニッケルの調達契約を結んだ。テスラの計画では、今後9つの採鉱会社から自社で使用するリチウムの大半、コバルトの半分以上、ニッケルの約3分の1を直接調達するという。

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