米国とEUが技術分野で協力する枠組み「貿易技術評議会(TTC)」は、中ロへの対抗を念頭に置く。AIなどの技術標準で協力し、供給網の安全を図り、安全保障に害を及ぼさない範囲を見極める。米国とEUの間にはIT企業への規制や個人情報の扱いで溝があるが、この協調枠組みを維持することが重要だ。

 第2次世界大戦後に米国が作り上げた地政学的体制を、失敗だったと否定する風潮が広がっている。ルールに基づくこれまでの秩序は、ロシアや中国など現状変更勢力による激しい攻撃にさらされてきた。中国からの攻勢は強まりつつある。

 戦後体制は内部からも崩されてきた。とりわけ米国のドナルド・トランプ大統領(当時)は、北大西洋条約機構(NATO)を時代遅れと皮肉り、貿易はゼロサムゲームだと嘲笑した。

 それほど目立たないが、これまでの体制が世界の変化に即座に対応することができなかった点も問題だった。特に、大国間での競争が激しさを増す技術分野での変化に対応できなかったのだ。

 あまり知られたものではないが、米国と欧州連合(EU)の間で、2021年に貿易技術評議会(TTC)という枠組みが作られた。技術・貿易分野でのこうした問題を是正しようという計画だ。このTTCの会合が、5月15~16日にフランスのパリ近郊のサクレーで開催され、今後2年間の活動計画をまとめた。米国の国務長官と商務長官、両閣僚が出席したことがこの会合の重要性を示している。

 この枠組みがうまく機能すれば、悲観論者を見返す裏付けになるだけでなく、自由主義の秩序を、現在直面するきわめて重大な脅威から守ることにもなる。

自由主義国結集し中ロ対抗

 TTCの主要な目的は、技術分野で中国から厳しい競争を挑まれている中で、西側の主導権を維持することだ。中国は驚異的な戦略的忍耐強さをもって、独裁主義的な技術圏を築き上げてきた。人工知能(AI)からハッキング技法の「ゼロデイ攻撃」、国内外の市民の監視まで、あらゆる種類の技術を利用する。

システムの脆弱性が見つかってから修正されるまでの期間(ゼロデイ)に、その脆弱性を利用して仕掛ける攻撃

 中国の現政権は巨額の投資を行い、量子コンピューティングから半導体に至るまで、すべての面で世界のトップに立とうとしている。また、その権威主義的価値観を世界に広めるためにIT(情報技術)を利用する。例えば、監視ツールを販売し、サイバー空間の運営ルールを変更しようとする。

 TTCの目的の一つは、欧米間のあらゆる協調を背後から支える中心的な見識に依拠することで、中国の取り組みの影響を抑えることにある。米国でさえ単独では中国に対抗するのに苦労するだろうが、自由主義と民主主義を奉じる国々が広く結集すれば、全体の経済的、軍事的影響力で中国に抵抗できる。EUと米国を合わせると、世界のIT市場の55%を占めるのだ。

 TTCが果たすことができる役割は、基本的に以下の3つだ。戦略的技術への投資を促すこと。どのような技術移転が国家安全保障を脅かすかの線引きをしやすくすること。中国とロシアの規範が、世界中の技術利用の在り方を支配しないようにすること。

 TTCは既に有用性を自ら証明してみせた。ロシアによるウクライナ侵攻から数週間後には、米国とEUが協調して輸出を規制し、意図的に流されたロシアの偽情報に対処することができた。また、4月28日に発表された「未来のインターネットに関する宣言」の策定にも協力した。この宣言では、60カ国以上が「自由で開かれた、グローバルに相互運用が可能な信頼できる安全な」インターネットの実現を誓った。

 しかし、TTCの真価は、10を超える作業部会の進捗により試されることになるだろう。作業部会では、「技術標準」から「安全な供給網」まであらゆる面について米国とEU双方の代表者が定期的に連絡を取り合う。

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