ロシアによる黒海の海上封鎖でウクライナの穀物が輸出できず、世界の食糧危機を招いている。鉄道や道路での輸送には障害があり、できるだけ早く黒海の海運を再開する必要がある。護送船団方式が検討されるが、早期の実施は望み薄だ。残る道はロシア艦隊を打ち破ることだという。

ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は撃沈したが(写真=AFP/アフロ)
ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は撃沈したが(写真=AFP/アフロ)

 5月17日未明、ウクライナ西部の都市リビウの空が明るく輝いた。黒海上のロシアの艦船から発射された一連の精密誘導ミサイルで、近郊の武器集積所が破壊されたのだ。

 ロシアの黒海艦隊が、旗艦としていた巡洋艦「モスクワ」を失ったことが大きく報じられた。だが、ポーランドとの国境からわずか40kmという地点に向けられた今回の攻撃は、ロシアの海軍力がなお脅威となることを鮮烈に思い出させた。

 ロシア海軍は、陸軍よりも戦果を上げてきた。陸軍はウクライナの主要都市を制圧するという当初の目標を達成できなかった。一方海軍は迅速に動いてアゾフ海を封鎖し、黒海の制海権を確立した。このため、海上を起点にウクライナに向けて何百回も攻撃を繰り出すことができた。他方、他国の船舶は航行不能になった。

 ロシア政府が実施した海上封鎖は、ウクライナからの穀物の輸出をほぼ完全にストップさせた。その結果、ウクライナの主要輸出産業は圧殺され、世界の食糧価格は記録的な高騰を見せている。

穀物2000万トンが滞留

 軍事専門家は、こうした事態を「海への盲目」と呼ぶ。海軍の力が国家の安全保障や経済において果たす重要な役割が見えていない、というわけだ。

 輸出できずにウクライナ国内に滞留する穀物は、2000万トンと推定される。これが国際市場に出回れば、需給の逼迫は緩和するだろう。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの状況を「恐ろしい」と表現した。国連世界食糧計画(WFP)のデイビッド・ビーズリー事務局長は4月、もっとあからさまに「これらの港の封鎖のせいで数百万人が死亡する」と警告している。

 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の研究員、シダース・カウシャル氏は、「黒海封鎖は世界にとって時限爆弾のようなものだ。陸上でのほかの戦いが膠着している以上、時間は、封鎖をしている側に味方する」と指摘した。

 2月にロシアの全面侵攻を受ける前、ウクライナの穀物とオイルシードは90%以上が船で輸出されていた。月に最大600万トンだ。国際海事機関(IMO)によると、現在、ウクライナの港には世界中の商船約80隻が足止めされている。ロシアの侵攻開始後、少なくとも10隻が攻撃による被害を受けた。

 その結果、黒海での海上保険の保険料は急上昇した。オデーサなどの港の周辺海域にウクライナが敷設した機雷も問題化している。機雷を撤去すればロシアに海からの上陸作戦を許すことになる。また、海底ケーブルに係留されていた機雷が漂流してくることもある。ロシア側も機雷を敷設している。

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