中国の数多くの民間企業が、世界の戦略的な要地にある島や港を開発する計画を各国政府に持ち込んでいる。必ずしも中国政府の指令を受けているわけではなく、政府からの事後支援を期待した無謀な提案もある。西側諸国は、中国政府と民間企業のこうした独特な共生関係への対応に苦慮している。

2012年に開催された太平洋諸島フォーラム。クリントン国務長官(当時)が出席するなど、米オバマ政権は太平洋島嶼諸国への関与を強めていた(写真:代表撮影/AP/アフロ)
2012年に開催された太平洋諸島フォーラム。クリントン国務長官(当時)が出席するなど、米オバマ政権は太平洋島嶼諸国への関与を強めていた(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 今から3年前、中国森田企業集団の副社長を務める徐長宇氏は、南太平洋の島国、ソロモン諸島のツラギ島を手中に収めようと、最初の試みに着手した。天然の良港を備えたこの島を、75年間租借するという交渉をひそかに進めたのだ。

 ソロモン諸島の法務長官が、このような租借は違法であると宣言したため、契約はならなかった。しかしこの件は、ソロモン諸島の国民や古くからの西側同盟国の間に、ある疑惑を呼び起こさずにはおかなかった。中国がこの島に軍事基地を建設しようとしているのではないかという疑惑だ。歴史を振り返ると、この島には英国、日本、米国が海軍基地を置いてきた。

 徐氏はいったんは撤退したものの、この島に再び手を伸ばそうとしたようだ。2019年10月にソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相が中国を訪問した際には、徐氏が全日程に付き従っていた。20年4月には、徐氏が中国森田をソロモン諸島の海外投資企業として登記。最初の取り組みが失敗した一因だった法制面のハードルが1つ除かれた。中国森田は兵器製造企業で、中国国防省ともつながる。

 それから5カ月後、同社はソロモン諸島に対するさらに大胆な提案に関与した。別の州の知事が、中航国際成套設備からの提案として受け取った書簡に次のように書かれていたのだ。中航国際と中国森田は「中国人民解放軍海軍への75年間の排他的権利を伴う租借地において海軍およびインフラ整備の複数のプロジェクトを推進する機会」について検討する意向である。中航国際成套設備は、中国国有の航空宇宙防衛企業が傘下に持つ子会社だ。

 この書簡は21年7月にSNS(交流サイト)上で暴露され、州知事は、何も合意されていないと否定せざるを得なかった。

 しかしその後、中国企業からのこの申し入れは、さらに大きな企ての前触れにすぎなかったことが明らかになる。22年3月に新たに暴露された別の文書によると、中国政府とソロモン諸島政府は、中国海軍がソロモン諸島の港で物資の調達、補給、要員交代を実施することを可能にする安全保障協定の草案を策定していたのである。

 この協定はまだ署名にまでは至っていないが、草案と、それに先立つ徐氏の努力から、2つのことが見えてくる。第1に、中国が南太平洋に海軍の足場を求めていることに疑いの余地はほぼない。この地域における米国とその同盟国による支配に挑戦しようとしているのだ。そして第2に、中国企業が時に中国政府やその地政学的野心と同調して事業活動に取り組む、その一筋縄ではいかない在り方がここに見て取れる。

*=4月19日、中国はソロモン諸島と安全保障協定を締結したと発表した。

中国企業は東インド会社の現代版

 中国森田は、戦略的に重要な土地を確保しようと世界中をあさって回る多くの中国企業の1つにすぎない。こうした中国企業はますます増えている。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)が調査した数十件の事例の大半は、ほぼ無名の中国投資会社が長期の租借を提案したり、広大な土地を買収しようとしたりするものだった。その多くは地政学的に注意を要する場所だ。例えば米国の同盟国や軍事施設に近かったり、海上輸送路の急所に位置する島だったり、重要な海峡を見渡せる場所だったりする。

 これらの企業の意図や政府との関係性は、多くの場合様々に解釈できる。民間企業が純粋に機会を捉えてのし上がろうとする事例に見えることもあれば、国家とのつながりが明らかなこともある。

 いずれにせよ、多くの政府は、これら株式非公開の民間企業が、後で得られる中国の国益のために道を切り開いている、という印象を持ち始めている。大英帝国時代には「国旗の後に交易が従う」と言われた。交易と植民地拡張主義との密接な関係を示す言葉だ。現代の中国の在り方もこれを思わせる。

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