デジタル市場に関するEUの新たな反トラスト法「DMA」の立法化が最終段階にある。プラットフォーマーが市場を支配するために利用してきた自社サービスの優先扱いなどが禁止される。IT大手各社は新法を骨抜きにすべくロビー活動を行ってきたが成果は得られず、新規則への対応へとかじを切る。

欧州委員会の競争政策担当委員、マルグレーテ・ベステアー氏(写真:ロイター/アフロ)
欧州委員会の競争政策担当委員、マルグレーテ・ベステアー氏(写真:ロイター/アフロ)

 暗号化電子メールサービスを提供するスイスのプロトンメールは、CEO(最高経営責任者)のアンディ・イェン氏が2014年に創業した企業だ。現在、世界で5000万人が同社のサービスを利用する。

 イェン氏には大きな夢がある。いつの日か、15億人が利用するメールサービス最大手「Gmail」のライバルになるという夢だ。

 しかし、インターネットが規制を欠いた無法地帯であり続ける限り、プロトンメールはグーグルの真の競争相手になりえないとイェン氏は語る。「我々はIT(情報技術)大手の厚意により成長している」と、同氏はジュネーブの本社で語った。実際、同社の存在自体がIT大手の善意のたまものなのだという。「彼らは今、法的、財務的な反動を一切被ることなく我々をインターネットから締め出すことができる」

 そこで、プロトンメールを含め、欧州の多くの企業が、欧州連合(EU)の「デジタル市場法(DMA)」に期待をかける。EUが20年ぶりにインターネット上の競争に関する規則を見直そうとしているのだ。EUは現在、このDMAと「デジタル・サービス法(DSA)」という2つのIT関連法案の成立に向け動いている。DSAはプライバシーやデータの扱いなどの分野をカバーする。

 米アルファベット(グーグルの親会社)、米アップル、米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフトなど、「ゲートキーパー」と呼ばれるIT大手が過去20年間に築いてきたデジタル帝国にとり、最大の脅威として迫るのはDMAだ。EUの立法機関は近日中に、DMA法案の文言や規制の範囲を詰め、最終案をまとめる見通しだ(編集部注:3月24日に欧州議会と欧州理事会=加盟各国=が法案について合意に達した)。この法律により、IT大手は囲い込んできた市場を開放せざるを得なくなり、欧州の競合企業に成長への道が開かれる。

 この反トラスト法案は、IT大手の事業の進め方を根底から変えてしまう可能性を秘めている。利用者のつなぎ留めと市場の支配、巨額の売上高確保を可能にしてきたサービス統合のための中核戦略が使えなくなる。

 DMAは市場時価総額が650億ユーロ(約8兆8000億円)〔編集部注:合意された法案では750億ユーロ〕を超える企業を対象とし、EU市場で巨大オンライン・プラットフォームが従うべき競争規則を定める初めての法律となる。例えばグーグルは、アンドロイド・スマホの利用者が最初から他社のメールサービスを選べるようにしなければならないし、アップルは同社のアプリ配信ストアを競合サービスに開放しなければならない。

 DMAは規制当局の権限も強化する。広範な調査権を認め、違反行為に対して全世界での売上高の最大10%を罰金として科すことができるようになる。極端な場合、違反を繰り返す企業に対して事業分割を命じることもできる。

 オランダの欧州議会議員で域内市場・消費者保護委員会の委員を務めるキム・ファン・スパレンタク氏は、DMAをIT大手規制における画期的な法案だと評価する。「我々は最終的に、彼らがあまりにも大き過ぎる件について、そして彼らが絶対に望まない相互運用性ということについて話をしている。これは大きな、大きな勝利だ」

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