米国の物価上昇が著しい。中でも激しいのはトラック輸送で2021年12月は17%を記録した。原因の一つは運転手が集まらないこと。認可の取得は容易でなく、ガソリン代も自己負担となりがちだからだ。インフレへの対処は金融政策だけでうまくいくものではない。
米労働省労働統計局の発表によると、2021年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比7%上昇した。この数字に多くの投資家が衝撃を受けた。無理もない。CPIがこれだけ跳ね上がったのは1982年以来のことだからだ。
他にも不安をかき立てる数字がある。トラック輸送コスト全般の同月のインフレ率は同17%に達した。この項目はこの統計の深い階層に記されている。長距離トラック輸送部門に目を向けるとさらにぞっとする数字が目に入る。25%だ。
米国内の貨物のほぼ4分の3がトラックで運ばれていることを考えれば、これは企業にとって厄介な状況である。消費者にとっても同様だ。言い換えると、インフレ率7%という恐ろしい数字の背景に何があるのかを理解したいなら、原材料やエネルギー、越境輸送にかかるコストを追うだけでは不十分。しばしば見過ごされるトラック運転手の存在にも注目する必要がある。

ところで、現在の価格高騰は、米連邦準備理事会(FRB)の当局者が2021年に口にしていたような単なる「一時的な」問題なのだろうか。そう考えられるなら気が楽だろう。経済学の基礎的な理論に従うなら、トラック輸送の需要が急増すると、精力的な企業はトラックと運転手を探し輸送能力の供給拡大に乗り出す。よってインフレは抑制される。
米国経済は現在、新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)による不況からの回復期にある。トラック輸送はこうした時期に需要が急増するサービスの一つだ。
実際、パンデミックが始まった当初に労働統計局のエコノミストたちは長々とした調査結果を発表し、トラック輸送部門は労働供給が需要の変動に適応できる市場であると主張していた。自由市場の信奉者が期待する見解だった。
ロボット運転手は普及せず
だが最近、トラック輸送の供給拡大が著しく困難であることが分かってきた。内在する構造的な障害があまりに多いためだ。これまで表に出なかった、あるいは目を向けられてこなかった多くの欠陥が現在の好況によって浮き彫りになった。このため、この業界は米国の政治経済が抱える幅広い問題を象徴する存在となっている。輸送の世界で露呈した数々の問題は決して「一時的なもの」ではない。
これを理解するため、今回の価格高騰の背景にある課題について考えてみよう。一つは原油価格の上昇だ。また、世界のサプライチェーンにおける混乱が国内のトラック輸送の循環をゆがめた事実もある。だが、運転手が不足していることの方がさらに大きい問題にみえる。
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