「退屈な類人猿」というNFT(非代替性トークン)のデジタル画像が驚くほどの高値で取引されている。一時的なブームにも捉えられるが、NFTはデジタルなものが唯一無二の本物であることを示す重要な技術だ。デジタル世界で「ぜいたく品」を創り出すのみならず、次世代インターネットWeb3にもつながる可能性を秘めている。

 4月に300ドル(約3万4000円)だった資産が3000ドル(約34万円)で売れれば、普通は大きな利益を得たと言えるだろう。だが、「Bored Ape Yacht Club(BAYC、退屈な類人猿ヨットクラブ)」のNFT(非代替性トークン)保有者が、漫画のキャラクターのような類人猿のデジタル画像を3000ドルで売ってしまったのは大失敗だった。

 NFTの取引市場「OpenSea」において「maxnaut」と名乗る人物は当初、このNFTを30万ドル(約3400万円)で売ろうとしていた。だが、取引手段である暗号資産イーサリアムの桁を誤入力してしまった。入力ミスを修正しようとしたが、取引を自動実行するプログラムが作動し一瞬で取引は成立。類人猿は手の届かないところに逃げてしまった。

 NFT市場は今、異常な状況にある。一部のデジタル画像には想像を超える値が付けられている。冗談で作られた画像であっても、だ。

 アーティストから競売会社に至るまで、誰も彼もがNFTという熱狂に沸いた「ヨット」に飛び乗ろうとしている。まだヨットが出帆するのか、沈むのか分からないというのにだ。

 ビープルというアーティストが制作したNFTのデジタルコラージュ作品「エブリデイズ」が、3月にクリスティーズで6900万ドル(約78億円)で落札されて以来、この技術の発明をめぐる興奮は過熱し、投機や詐欺や自己宣伝が横行している。この様子を見ると、NFTは壮大な妄想にすぎないのではとも思えてくる。

 しかし、NFTはメタバースをめぐる、取るに足らない言説とは異なり、真剣に考える価値のある技術だ。BAYCはその理由を知るヒントになる。2021年10月にはサザビーズでBAYCの金色の毛皮の類人猿の画像に340万ドル(約3億9000万円)の値が付いた。これらの類人猿のNFTは、金持ちのオモチャというだけではない。NFTは今後、インターネット上で、唯一無二のものを証明する手段となるべきものなのだから。

<span class="fontBold">NFTの取引サイトでは、BAYCのNFTコレクションが高値で取引されている</span>
NFTの取引サイトでは、BAYCのNFTコレクションが高値で取引されている

「保有すること」がステータス

 BAYCの類人猿は、最先端技術に精通した4人のクリエーターによって創り出された。彼らは、17年に初のNFT作品集となった8ビット風画像「クリプトパンクス」が熱狂的に売り買いされているのを見て、この技術をもう少し発展させようと考えた。そして、1万点の類人猿のキャラクター画像を制作した。彼らはそれぞれにこざっぱりとした服を着て、一癖ありげな表情をしている。