臨床試験のデータ不足や供給遅延、副作用の問題でアストラゼネカ製ワクチンは富裕国ではほぼ使われなくなった。一方で、同社のワクチンは価格や輸送コストでの優位性を武器に、発展途上国の初回接種で数多く使われている。だが、今後の需要が堅調であっても、ワクチン事業が同社の収益増に貢献する可能性は低いと専門家は見ている。

 ボリス・ジョンソン英首相は2021年12月中旬、テレビ演説にて「オミクロン型の波が押し寄せている」と国民に危機感を持つよう訴えた。そして感染から逃れるための最善策は3回目の新型コロナワクチン追加接種を受けることであり、全成人に対し年内にも追加接種の機会を提供すると発表した。だが、接種するワクチンの選択肢は前よりも狭まるとされている。

 追加接種で主流となるのは米モデルナと米ファイザーだろう。英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発した、英国が誇る新型コロナウイルスワクチンは、承認されて約1年たつが、追加接種にはほぼ使用されない見込みだ。

 アストラゼネカ製ワクチンは、英国の象徴とも言えるワクチンだが、これまで様々な懸念を引き起こしてきた。追加接種に使われないのは英国にとっての屈辱だ。英王室が称賛し、首相が世界中に宣伝し、英国の最も有名な大学と英国最大級の企業が製造したワクチンが、不安と懸念を引き起こしてしまったのだから。

 アストラゼネカは臨床試験のデータ不足やワクチン出荷の遅れに対し激しい非難を受けた。極めてまれではあるものの、重篤な副作用があることも明らかになった。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、モデルナとファイザーの株価が急騰する一方で、アストラゼネカ株は新型コロナウイルス感染拡大前の水準にほぼ戻っている。

<span class="fontBold">アストラゼネカ製の新型コロナワクチンは、富裕国で進む3回目の追加接種ではほぼ使用されない</span>(写真=AFP/アフロ)
アストラゼネカ製の新型コロナワクチンは、富裕国で進む3回目の追加接種ではほぼ使用されない(写真=AFP/アフロ)

ワクチン事業で利益は得ない

 さらに、多くの関係者を当惑させているのが、アストラゼネカのワクチン広報戦略が練られていないことだ。見方によっては、アストラゼネカの新型コロナワクチンは現在、世界で最も感染拡大防止に貢献していると言える。

 英医療調査会社エアフィニティーによれば、アストラゼネカ製ワクチンの生産量は22億回分に達し、ファイザーの20億回分、モデルナの5億回分を上回る。富裕国はアストラゼネカ以外のワクチンを使用するようになっているが、発展途上国は主にアストラゼネカのワクチンを追加接種ではなく初回接種に使用している。この事実を考えると、アストラゼネカのワクチンは他社のワクチンよりも多くの人の命を救っている。

次ページ 生産能力を大幅に増強