米政権が上院可決を目指すビルド・バック・ベター法案の中に、エンジェル優遇税制の縮小が盛り込まれている。富裕層に有利な、キャリードインタレストの税優遇見直しは骨抜きにされたが、エンジェル改革案は残りそうだ。税制改革一つとっても、一貫した理念をつらぬけないバイデン政権の政策実現に向けた手腕が疑問視される。

<span class="fontBold">バイデン政権は、下院で可決したビルド・バック・ベター法案の上院可決を目指している</span>(写真=Win Mcnamee/Getty Images)
バイデン政権は、下院で可決したビルド・バック・ベター法案の上院可決を目指している(写真=Win Mcnamee/Getty Images)

 バラク・オバマ元米大統領の「希望に満ちた変革」の精神がワシントンに満ちあふれていた10年前、ホワイトハウスはエンジェル投資家に大きな期待を寄せていた。

 2010年、ホワイトハウスは「適格中小企業株式(QSBS)」という新たな税制を発表した。これは、ベンチャー企業の初期段階ともいえる、資産5000万ドル(約56億5000万円)未満のシード企業に、最低5年間資金提供したエンジェル投資家は、最大1000万ドルまでキャピタルゲイン税を免除されるというもの。当時発表された資料によると、「民間セクターの中小企業投資を促進し、活発なイノベーションを実現しよう」とする狙いがあったという。

 同時に、アメリカ文化の根幹ともいえる価値観を税制に反映し、共和党含む超党派の支持を取り付けようとする意図も込められていた。

 しかし10年後の今、スタートアップを立ち上げた経営者たちは、かつてほど意気揚々としてはいられなくなっている。民主党は近く、ジョー・バイデン米大統領の看板政策で、下院で可決済みの「ビルド・バック・ベター(よりよく米国を再建する)」法案を上院に提出する。これは、1兆7500億ドル規模の気候変動・社会保障に関わる歳出をめぐる法案だ。実はこのあらゆる分野の歳出に言及された法案の中に、オバマ元大統領のQSBS改革を覆す条項がひっそりと紛れ込んでいる。

富裕層優遇是正で財政再建

 今のところ、エンジェル投資家を除いて、これに気付いている人はほとんどいない。しかし、投資家ならば皆、注意を払うべきだ。これはバイデン大統領の大いなる志がいかに後退したかを示す象徴的な出来事ともいえる。彼の目指す理念が、議会の政策決定プロセスの過程においていかに損なわれているかを端的に示すエピソードとも捉えられる。

 問題となっているのは、米国におけるキャピタルゲイン課税と所得課税との間に存在する著しい不公平感だ。バイデン政権はより公平な税制の実現を目指している。知恵の働く投資家が自分の所得をキャピタルゲインとして処理し、節税することを止めることで、傷んだ財政を立て直したいと繰り返し表明してきた。

 このため、米政権はビルド・バック・ベター法案の作成時にプライベートエクイティ(PE=未公開企業投資)ファンドや不動産ファンドなどが数十年にわたって利用してきた「キャリードインタレストの税優遇」(編集部注:ファンド資産を3年間保有するなどの条件を満たせば運用者の成功報酬に対する税制優遇が適用される)に狙いを定めた。ホワイトハウスの上級経済顧問、ジャレッド・バーンスタイン氏は9月「(キャリードインタレストは)絶対に塞ぐべき抜け穴だ」と語った。

 加えて、QSBSへの減税率を100%から50%に引き下げる条項も導入された(他の税制改正を考慮すると、実質30%になる)。過去10年間にQSBS減税の恩恵を受けたエンジェル投資家には、シリコンバレーの超富裕層が含まれていたという報道を受けて講じられた措置だ。