途上国へのワクチン供給量を増やすためには、より多くのメーカーが生産ノウハウを共有し、増産体制を築くことだ。WTOでは、ワクチンの知財保護義務を一時的に免除することで、生産拡大を図ろうとする案が検討されている。一部の富裕国や医薬メーカーは反対しており、ブラジルでは風穴を開けようとする動きがあるも、事態は進展しない。

世界貿易機関(WTO)は当初、11月30日から12月3日に閣僚会議を開催する予定だった。過去1年にわたり棚上げされてきた問題を協議するためだ。
中でも、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以降、富裕国と同様の検査や治療、ワクチン開発を低所得国でも実現させることが、喫緊の課題となっている。そのためには、医薬品の知的財産権保護義務の履行を一時的に免除する問題に関し、各国の意見調整を図ることが必要だ。
だがWTOは問題の緊急性を痛いほど認識しつつも、オミクロン株の出現を受けて会議の延期を決定した。オミクロン株は南アフリカの科学者により初めて確認されたが、発生源がどこなのか、正確なところはいまだによく分かっていない。
世界のすべての人にワクチンを接種することがパンデミックを終わらせる唯一の方法であることに、異を唱える人はほぼいないだろう。ワクチン接種率が高まれば高まるほど、危険な変異株が生まれる確率は小さくなる。デルタ株はインドで初めて発見されてから急速に広がり、世界で主流を占める変異株となった。デルタ株が発見された当時、インドのワクチン接種率は3%に満たなかった。現在、接種率が最も低い地域はアフリカで、2回目の接種を終えたのは全人口のわずか7%にすぎない。
医薬品会社の独占が問題
低所得国が十分なワクチンを入手できない理由は明白だ。広く行き渡らせるだけのワクチン供給量が確保できないからである。寄付の動きはあるものの、問題解決にはほど遠い。必要な数十億回分のワクチンが余っている国など何処にもないのだから。支援の手も足りない。
新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組みであるCOVAXは、2021年末までに低所得国に20億回分のワクチンを送ると約束した。だが実際に供給されたのはそのわずか25%にとどまる。
世界で生産されているワクチンは生産可能な量を下回っている。ワクチンを生産する能力のある世界中のすべての企業はフル稼働すべきだ。だが米政府および独政府は米モデルナ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、米ファイザー、独ビオンテックにワクチンの開発費を支払った後、これらの企業に対し、他の国の医薬品企業と技術を共有するよう要請することに関しては消極的である。
政府がこうした姿勢を変えない限り、企業はWTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)が与えた、うまみのある独占権を利用して利益を上げ続けようとするだろう。TRIPS協定は、WTOが創設された1995年に発効した。WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長によれば、TRIPS協定の知的財産権保護義務を一時的に免除にする提案は、行き詰まっているという。提案に反対する富裕国は減少傾向にあるものの、反対国の数は依然としてこの問題の解決を阻むのに十分であるといえる。
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