韓国政府は2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。だが、韓国経済のけん引役である巨大製造業は、この目標を実現するための明確な計画を持たない。大規模な減産や人員削減をしなければならない懸念がある。それは工業都市に大きなダメージを与えることになる。

 「我々が繁栄すれば、国も繁栄する。そして国が繁栄することが、我々が繁栄するすべだ」。韓国西岸の港湾都市・群山(クンサン)にある、かつて現代重工業の造船所だった建屋の壁に残る碑文にはこう書かれている。

 韓国最大のコングロマリットの一角を占める現代グループの創業者、故・鄭周永氏の言葉だ。韓国の開発戦略の概要を的確に表している。

 製造業の能力と国家の利益を同一視し、国家主導で重工業に巨額の資金を投じた。この投資が韓国を豊かな国にした。

 今は色あせた碑文の文字は、韓国が迎えようとしている不吉な未来を暗示する。群山では4年前、現代重工業の群山造船所と米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動車工場が10カ月のうちに相次いで閉鎖され、何万人もの雇用が失われた。

 この先、さらに悲惨な状況に陥る可能性がある。韓国政府は2050年までに温暖化ガスを実質ゼロに削減する目標を掲げる。しかし、同国の巨大製造業各社はそのための明確な計画を持っていない。これらの企業が温暖化ガスの排出削減にどのように取り組むかが、韓国の製造業の行く末だけでなくその企業城下町の命運を握っている。

 韓国は急速な工業化を果たした。それを明確に示すのが同国の沿岸に位置する諸都市だ。眠ったような漁港と交易所しかなかった町は、1960年代以降、造船所や自動車工場、製鉄所、製油所、コンテナターミナルが立ち並ぶ広大な工業地帯に変貌した。

巨大製造業と足並みをそろえて成長した韓国経済
●1人当たりGDPの推移
巨大製造業と足並みをそろえて成長した韓国経済<br /><span class="fontSizeS">●1人当たりGDPの推移</span>
出所:Statistics Korea/The Economist

 韓国では製造業がGDP(国内総生産)の37%を稼ぎ出す。この割合は、富裕国の平均である27%を上回る。製造業が輸出に占める比率は80%を超える。

 韓国で最も重要な工業都市、蔚山(ウルサン)市の1人当たりGDPは韓国の平均より75%高い。同市内の博物館は、同市の産業施設のミニチュアモデルを展示しており、その周りを歩きながら同市が発展してきた歴史を理解することができる。蔚山の人々が伝えたいと考える蔚山の歴史だ。

 「私たちは1人当たりGDPが100ドルしかない時代から始めて今日の繁栄を手にした」。蔚山博物館で館長を務めるシン・ヒョンソク氏はこう言って笑う。

政府の目標に企業は警戒

 だが気候変動の抑制に向けた世界的な取り組みに韓国が参加したことで、同国の重工業の中心地は成長のけん引役から重い足かせへと一変した。韓国は化石燃料に大きく依存しており、このため、温暖化ガスの排出量で世界第7位に位置する。

<span class="fontBold">韓国経済は重工業を展開する巨大企業がけん引してきた</span>(写真=ロイター/アフロ)
韓国経済は重工業を展開する巨大企業がけん引してきた(写真=ロイター/アフロ)

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2030年までに温暖化ガスの排出量を18年比で40%削減すると表明した。そして50年までに同排出量を実質ゼロにし、カーボンニュートラル(炭素中立)を達成する意向だ。この約束は8月に法制化された*1

*1=原文のまま訳した

 複数の環境グループによれば、韓国がパリ協定の下で表明したレベルを満たすには、文在寅大統領が掲げる目標では依然として不十分だ。韓国政府自身が、排出量削減において他の富裕国に後れを取っていると率直に認めている。

 それでも、文在寅大統領の発言に、産業界の主立った人々は警戒を強めている。彼らは目標達成までにさらなる時間と支援が与えられない限り、生産の削減と大規模な人員削減が避けられないと警告する。

 韓国は1970年代、軽工業から重工業に転換する際に大きな痛みを経験した。低炭素経済への転換に真剣に取り組めば、当時と同じような痛みを製造業は再び味わうことになる。ソウル大学のパク・サンイン氏はこう指摘する。同氏は韓国のコングロマリットに注目し研究している。

続きを読む 2/2 次期政権は環境を重視するか

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1391文字 / 全文3206文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。