原子力発電は気候変動問題の対策に役立つエネルギー源なのか、それとも汚染を生む危険な存在なのか。原発は安全だとする公式見解に反対派は隠蔽工作だと反論、議論は感情的な言い争いに終始する。今こそ先入観を捨て、相手の意見に耳を傾け、解決に向け妥協策を探るべきだと筆者は訴える。

<span class="fontBold">反原発派は、福島やチェルノブイリの事故を理由に原発廃止を訴える</span>(写真=AFP/アフロ)
反原発派は、福島やチェルノブイリの事故を理由に原発廃止を訴える(写真=AFP/アフロ)

 この1年、「ビットコイン」という言葉をコラムで書くたびに、SNSが炎上するのをこの目で見てきた。暗号資産に対する人々の意見は真っ二つに割れている。それゆえ筆者は、賛成派と反対派、どちらの側にも相手側を許せないと考える人が山ほどいるということに、さほど驚かない。

 11月4日、ビットコインに劣らず双方の怒りをかき立てる話題がもう一つあることに気づいた。それは原子力発電をめぐる問題についてだ。

 筆者はこの日、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に合わせて開かれたイベントの1つに参加した。国連の原子力監督機関である国際原子力機関(IAEA)事務局長のラファエル・グロッシ氏に壇上でインタビューしたのだ。インタビューの内容は多岐にわたった。グロッシ氏は、二酸化炭素排出量を削減したいのなら原子力発電を再び採用すべきだと主張した。同氏の指摘によると、COP26の開催地である英国のグラスゴーは、実際、電力の4分の3が原子力で賄われているという。

 同様の議論は原発推進派の口からよく聞かれる。しかし「2011年に日本の福島第1原子力発電所で発生した事故がある以上、一般の人々は原発を『安全』と考えることができるでしょうか」と筆者がグロッシ氏に問いかけると、話がもつれ始めた。

「被曝での死者はゼロ」に波紋

 福島の事故では、原子炉が津波に襲われ、メルトダウン(炉心溶融)に至り、放射性物質が漏れ出したのは多くの人の記憶に新しい。

 グロッシ氏はこうした懸念に反論した。彼は聴衆に「(福島では)被曝による死者はいませんよ」と、語りかけた。福島の事故は、原子力発電がいかに危険かではなく、いかに安全になり得るかを証明したというのだ。一部の聴衆からは「そんなばかな」とも捉えられる笑いが起こった。

 筆者も壇上で、あの大災害の時に読んだ、さまざまな警告記事を思い起こしていた。だがグロッシ氏は「事実は事実です」と言い切った。福島での死亡者は何千人もいるが、それは津波や、長引く避難生活のストレスによるものだ、と。

 会場の聴衆はさらに疑念を抱いたに違いない。しかし筆者は、インタビューさえ終われば、この話題もそこまで言及されることはないだろうと捉えていた。

 だがそれは間違っていた。イベント終了後、原発推進派は早々にSNS上で筆者の「恥ずべき」「無知な」インタビューに対する非難を始めたのだ。

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