日経ビジネス2021年10月25日号の特集で見た通り、防衛装備の開発や売買をめぐる交渉は一筋縄ではいかない。様々な思惑が絡む。トルコが米国にF-16戦闘機の売却を求めている。バイデン政権がこれを進めても拒否しても問題が生じる。進めれば、トルコに厳しい米議会の反発を招く。拒否すれば、トルコはロシアに接近するだろう。

 トルコは戦闘機の近代化をめぐり難題に直面している。何十年にもわたって北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるトルコに対し、米国が、最新の第5世代戦闘機F-35の引き渡しを拒否したのだ。トルコは同機を空軍の柱とする計画で、すでに100機以上を発注済みだ。

 米国は、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からロシア製防空システムS-400を購入する決定を下したことに反発した。米国は2020年12月、トルコの防衛産業関係者に対して制裁措置を発動した。

 トルコは国産戦闘機を開発することで、空軍が抱える穴をいつの日にか埋めることを目指している。だが、それが実現するのはまだはるか先のこと。目下は旧式化しつつあるF-16に頼らざるを得ない。

<span class="fontBold">トルコが運用するF-16戦闘機</span>(写真=ロイター/アフロ)
トルコが運用するF-16戦闘機(写真=ロイター/アフロ)

 以上が、トルコが最近、F-16を新規に40機売却するよう米国に要請した背景である。同時に、既存のF-16約80機を近代化するためのアップグレードキットも求めた。F-16は米ロッキード・マーチンが製造する。

 トルコは、今回の要請はトルコと米国双方の国益にかなうと主張する。トルコの隣国で、長い間対立関係にあるギリシャがフランス製の戦闘機ラファールと米国のF-35の購入に動いている。トルコはこれに遅れることなく空軍を近代化できる。

トルコと米欧の関係修復に

 米国は、S-400がF-35の能力に対する脅威となるとみているが、F-35より古い世代のF-16に関して同様の問題は起こらない可能性が高い

 他方、この案件は米防衛産業に利益をもたらす。トルコと米欧同盟国とのぎくしゃくした関係を修復するのにも役立つだろう。エルドアン大統領がプーチン大統領に近づくことは西側同盟国の利益にならない。

 「ここに機会がある」。かつてトルコの外交官を務め、現在は米ワシントンを拠点とする米カーネギー国際平和基金で活動するアルパー・コスカン氏はこう語る。

 「この交渉が成立すれば、トルコの防衛産業、もしくは少なくともその大部分が、大西洋を挟む米欧の同盟関係に組み込まれた状態が続くことになる。そうすれば、我々は今直面しているジレンマを抜け出すことができる。このジレンマを放置すれば、他の多くの分野で波紋が生じることになる」と同氏は指摘する。

続きを読む 2/2 バイデン政権の苦境

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