石油需要が回復し、価格が急騰しているが、石油大手は増産に消極的だ。CO2排出量削減のプレッシャーがのしかかる。だが、石炭を代替する天然ガスの開発まで止めると逆効果だ。今後は、株主から圧力がかからない国営や非上場の石油会社が新規投資を担うだろう。

<span class="fontBold">海上に設置された天然ガスの施設</span>(写真=AP/アフロ)
海上に設置された天然ガスの施設(写真=AP/アフロ)

 中国では電力供給が制限されている。インドは石炭不足だ。欧州全域で電力価格が急騰した。レバノンでは大規模停電が発生。燃料貯蔵施設で火災も生じた。国際エネルギー市場が機能不全に陥っている影響が世界中で見られる。

 この混乱で、米国の原油価格は1バレル当たり80ドル(約9100円)超と、2014年秋以来の高値を付けている。欧州では天然ガス価格が年初の3倍に上昇した。もはや歴史の遺物と考えられていた石炭への需要も高まっている。

 あるコモディティー商社のCEO(最高経営責任者)は毎朝5時に出社し、アジアのどこかで停電が起きたとの知らせがないか最新ニュースをチェックしているという。暖房需要が増加する北半球の冬はこれからだ。

 数年前なら、これほど価格が上昇すれば化石燃料の生産者はただちに増産し、投資を拡大したはずだ。原油価格が1バレル100ドルを超えていた14年に、英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルは、上流部門(探鉱、油田・ガス田開発、生産)の案件に300億ドル以上の資金を注ぎ込んだ。さらに同社は、英国の競合だったBGグループを530億ドルで買収。液化天然ガス(LNG)生産の世界最大手となった。

 しかし今回、同様の動きは見られない。気候変動問題がエネルギー企業に、化石燃料から手を引くようかつてない圧力を掛けているからだ。欧州企業への圧力は特に厳しい。

石油離れ進める民間大手

 シェルは、二酸化炭素(CO2)排出量が比較的少ない天然ガスや再エネ電力の市場への移行を長期的に進めている。21年は上流部門への投資額を約80億ドル(約9100億円)に縮小。9月には、米テキサス州のパーミアン盆地にあるシェール資産を米国の競合コノコフィリップスに95億ドル(約1兆1000億円)という格安価格で売却した。かつては高く評価される資産だった。

 また、1936年から開発を進めてきたナイジェリアでも、内陸部の油田事業から撤退しつつある。

 シェルは最近、2030年まで毎年1~2%の石油減産を続けると発表した。同社の石油・天然ガス上流部門責任者ワエル・サワン氏は、エネルギー価格の急騰は投資にどう影響するかと問われると、「私の目から見ると何の意味もない」とそっけなく答えた。

 こうした見方は業界に広く浸透している。欧州で上場する石油会社は、新規の油田開発をしないよう投資家から圧力を受けている。主に環境に関わる理由からだ。

 価格が上がったからと上流部門への投資を増やすと、よりクリーンなエネルギーを供給するとの約束の「正当性を損なう」恐れがある。米ボストン・コンサルティング・グループのフィリップ・ウィテカー氏はこう指摘する。

 米国の上場シェール企業は、かつては原油価格が上がれば必ず「フラッキング(水圧破砕法)によるシェール油井掘削」を次々と拡大した。だが今は株主から、地面に穴を掘るよりも、配当や株式の買い戻しで利益を還元せよとの圧力を受ける。

続きを読む 2/2 天然ガス開発停止は逆効果

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