多くの企業が脱炭素に向けた目標を誇らしげに「宣言」しているが、本気で削減計画を立てている企業はまだ少ない。パリ協定で決めた目標を達成したいのであれば、各国は早期に世界規模の炭素税制度を導入するべきだ。企業には大きな圧力となり、事業モデルの見直しやサプライチェーンの変革が必要だが、技術革新の好機でもある。

<span class="fontBold">炭素税の導入は欧州地域では進んでいるものの、世界レベルの仕組みは整備されていない</span>(写真=ロイター/アフロ)
炭素税の導入は欧州地域では進んでいるものの、世界レベルの仕組みは整備されていない(写真=ロイター/アフロ)

 10月31日から11月12日まで、英グラスゴーで第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開催される。多くの企業経営者も参加に向けて準備を進めているが、彼らが真に重要な問題について問われることは今回、ほぼないだろう。

 だがいずれ各国政府が、2015年のパリ協定で明示された「世界の平均気温を産業革命前と比べて摂氏1.5~2度の上昇に抑える」という目標を本気で目指すと合意したらどうなるのか。経営者たちはそろそろ真剣に考えた方がよさそうだ。

 大半のグローバル企業は、この問いに答えることを先延ばしにしたいと思っている。ビジネスモデル全体に破壊的な影響が及ぶからだ。

 今のところ企業は、二酸化炭素(CO2)排出量を「ネットゼロ」(実質ゼロ)にするという「宣言」を乱発している。そう言っておけば、投資家や従業員や顧客に好印象を与えられると考えている。こうした宣言は確かに、正しい方向に向けた歩みと言えよう。だが中には、まったく説得力のない誓約をしている企業もある。20カ国・地域(G20)首脳会議に参加する経済規模の大きな国の企業は、4200社以上が気候変動対策の意思を表明している。しかし、パリ協定が求める水準と整合する目標、いわゆるSBT(科学と整合した目標設定)を掲げる企業は、そのうちの5分の1にすぎない。SBTに取り組むには、企業は数年以内にCO2排出量を削減し始めなければならないからだ。

炭素価格の世界平均は3ドル

 排出量の大きな企業にとって、取り組み強化は収益性を大きく損なうことを意味する。「社会のため」「人類のため」と利他的理念だけで企業を動かせると考えるのは早計だろう。パリ協定を達成させるために、政府は企業に圧力をかける必要がある。

 企業側も、CO2削減に向けた最も適切な圧力のかけ方は、炭素税取引の仕組みを世界規模で整備するとともに、高負担にさらされる業界の痛みを和らげる負担再分配の仕組みの構築であると理解している。

 問題は、世界のCO2排出量のうち、カーボンプライス(炭素税および排出権価格)でカバーされている部分は現時点で5分の1程度にすぎないということだ。

 その結果、現在のカーボンプライスの世界平均はCO21トン当たりわずか3ドル(約340円)となっている。国際通貨基金(IMF)によると、パリ協定の野心的な目標を達成するには、世界のカーボンプライスを75ドル(約8400円)に引き上げる必要があるという。中には、これより2倍近い水準が必要だと考える者もいる。

 高額なカーボンプライスをグローバルレベルで設定されたら、程度に差こそあれすべての企業に影響が及ぶ。現時点では本当に設定される可能性はかなり低そうだが、実際に導入されたら何が起こるだろうか。

 まず重要な問題は、CO2を大量に排出する業界とそうでない業界とでは、まったく対策が異なるという点だ。大胆な削減目標を早々に採用するのは、小売りなど、比較的容易に排出量を減らせる業界の企業となる。そもそも英国など、電力の脱炭素化が急速に進んでいる国においては、エネルギーの利用者側は削減努力を求められないかもしれない。

 これに対して、電力、石油・天然ガス、製鋼、セメントなど一握りの業界は、かなり多くのCO2を排出しているため困難に直面するだろう。製造過程で大量のCO₂排出を伴う製品への需要が落ち込めば、新たなキャッシュフローを生み出す手段を見つけなければならない。

続きを読む 2/2 供給網の脱炭素達成は困難

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