米バイデン政権は、富裕層への増税で財源を確保し、中間層や低所得層のために支出する法案をまとめた。大富豪たちが税金をほとんど納めていない現状を正し、格差を縮小して成長につなげようとしている。しかし法案には様々な抜け穴が残るため、富裕層には課税できず、結局は法人税の増税に頼ることになりそうだ。

<span class="fontBold">バイデン氏は富裕層への増税分を、3.5兆ドル規模の財政支出の財源にしようとしている</span>(写真=Anna Moneymaker/Getty Images)
バイデン氏は富裕層への増税分を、3.5兆ドル規模の財政支出の財源にしようとしている(写真=Anna Moneymaker/Getty Images)

 米国議会が前回、個人所得税と法人所得税を引き上げる大幅な増税法案を可決したのは、ビル・クリントン政権が発足した1993年のことだった。コメディードラマ「となりのサインフェルド」がエミー賞を取り、ロックバンド「ニルヴァーナ」がMTV向けにアコースティックギターで歌っていた頃の話だ。議会では増税のほかにも北米自由貿易協定(NAFTA)の批准をめぐり意見が交わされていた。

 これ以後、米国で実施された税制改革はほぼすべてが減税だ。米国は現在、先進国の中で最も税負担の軽い国となっている。税収総額がGDP(国内総生産)に占める割合は2019年に24.5%と、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進諸国の平均より9ポイントも低い。

 現在米議会で審議されている3.5兆ドル(約390兆円)規模の財政支出法案(今後10年間に見込まれるGDPの1.2%に相当)は、この現状を変えようとしている。法案の可決には上院の民主党議員全員の賛成票が必要になる。現時点では難しそうだ。

 法案の内容は米国民の生活の多くに影響を及ぼす。子どもを持つ親への手当、3~4歳児向けの保育サービス無償化、電力会社に再生可能エネルギーを利用させるための優遇措置といったものが含まれている。

 米国の税制に与えるインパクトも大きい。米シンクタンク、タックス・ポリシー・センターのスティーブ・ローゼンタール氏は「この法案は米国議会が、単純に借り入れをして財政負担を将来世代に先送りするのではなく、時には本当に増税できるのだと示すものだ。私は、借りて使うよりも、税金を集めて使うほうがはるかに好ましいと思う」と語る。

「トランプ減税」は撤回へ

 米国の連邦所得税は現在も累進課税方式だ。つまり、所得が多い者のほうが税率が高い。今回の法案のうち米下院歳入委員会が承認した項目がそのまま施行されれば、累進性はさらに強まり、個人所得税の最高税率は37%から39.6%へと引き上げられる。年収500万ドル(約5億6000万円)を超える人は、これまでより3%分多く納税することになる。キャピタルゲイン税の最高税率は20%から25%に、法人税の最高税率も26.5%へと引き上げられる。これにより、ドナルド・トランプ政権下で17年に議会を通過した減税(トランプ大統領の署名により成立)の一部は撤回されることとなる。

 法案の採決は数週間以内に行われる見通しだが、債務上限の引き上げ案と抱き合わせになる可能性もある。民主党内の全面的な支持を得るために、一部で増税幅を抑えるといった譲歩に応じる動きとなるだろう。

 しかし、納税者は名目上の税率をそのまま納めているわけではない。富裕層は住宅ローンから地方税に至るまで様々な部分で税控除を受け、納税額を減らすことができる。超富裕層では節税余地はさらに大きくなる。カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ氏とガブリエル・ズックマン氏は、米国の高所得者上位400人の実質的な税率が、中間層の税率よりも低いことを明らかにした。大富豪は所得の多くを法人として得ているためだ。非営利の米報道機関プロパブリカが21年に発表した報告書によると、米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏や米テスラのイーロン・マスク氏は毎年、ほとんどあるいはまったくと言っていいほど税金を払っていない。

 下院で審議中の法案は、こうした富裕層に対する税のあり方に異を唱えようとしている。米議会の超党派調査機関である両院税制合同委員会によると、提案されている増税の大半は年収100万ドル(約1億1000万円)以上の世帯が負担することになるという。この層の納税額は23年までに11%上昇する。

 一方、年収20万ドル(約2200万円)未満の世帯は減税となる。最も恩恵を受けるのは最低所得層だ。「格差はかなり縮まる。この法案の狙いは、主に中間層と労働者階級に資金を投入し、その財源を富裕層や法人への大幅増税で賄うことだ」と、左派のシンクタンク、米国進歩センターのセス・ハンロン氏は語る。

続きを読む 2/2 税制改革の肝、実現できず

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