フランスとの摩擦はあったが、米英豪が合意した「AUKUS」の重要性を忘れてはならない。オーストラリアの原子力潜水艦保有は中国への抑止力を高め、東南アジアに新たな軍事バランスをもたらす。ただし、対中政策は軍事にとどまらない。米国は、経済や温暖化対策において協力を進める必要がある。

<span class="fontBold">米国のピボット政策がようやく実体を伴う</span>(写真=ロイター/アフロ)
米国のピボット政策がようやく実体を伴う(写真=ロイター/アフロ)

 米国のバラク・オバマ大統領(当時)は約10年前、オーストラリア議会で演説し、アジアへのピボット(回帰)を宣言した。「米国は太平洋国家であり、我々はここにとどまる」

 今年9月24日には、米国、オーストラリア(豪州)、インド、日本の4カ国(QUADと呼ばれる)の首脳が初めて実際に顔を合わせて会談する。これは、米政府が10年前と同様の姿勢を示す機会になるはずだ。会談では「自由で開かれたインド太平洋」について話し合う。主張を強める中国への対決姿勢を表す合言葉だ。

*=4カ国は予定通り首脳会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」について議論した

 話し合いで使われる表現はおなじみのものになるだろうが、今度ばかりは各国の反応が異なるかもしれない。味方も敵も、その言葉の内実を信じるだろうからだ。

 その理由は、15日に発表されたAUKUSにある。米国と英国が支援し、豪州が最低8隻の原子力潜水艦を配備するとの合意だ。この新たな枠組みが波紋を呼んだ。規模が非常に大きいうえ、フランスとの間で見苦しい言い争いが生じたからだ。AUKUSに伴い、豪州とフランスが結んでいた潜水艦調達契約が破棄された。

 この騒動のために、AUKUSが持つ真の意義が見失われている。

AUKUSは米戦略の片面

 AUKUSは、太平洋地域に新たな力の均衡を築く施策として意義がある。この地域では、時に、同盟関係が脆弱に見えることがあった。トランプ政権当時はとりわけそうだった。AUKUSは、米国が太平洋地域に厳しい姿勢で臨むことを示すものだ。

 原潜の開発は数十年単位の取り組みであり、莫大な努力が注ぎ込まれる。米国と英国は最も機微な技術でさえ、ある程度豪州に供与しようとしている。3カ国は、サイバー能力、人工知能、量子コンピューティングなどの分野でも協力する。

 AUKUSの取り組みに関して、米国のジョー・バイデン政権は信用に値する。ただし、この枠組みの構築は米国の戦略において、その片面にすぎない。対中関係は軍事的に対峙するだけでは済まないのだ。米国は中国との共存を図るため、協調する必要もある。一つには、気候変動において。また一つには、ルールに基づく経済競争においてである。

 この図式には、東南アジアが全く登場しない。この地域には、中国の圧力に対して特に脆弱な国々が存在するのだが。米国は今もなお、東南アジア政策で悩んでいる。

 米国が不承不承、事を進めていると誤解されないよう、最初にAUKUSがもたらす利点を考察する。

 オバマ大統領がピボットを宣言した後、アジアにおける米国の友好国は10年の間、失望し続けてきた。中国は、南シナ海の岩礁に対するフィリピンやベトナムの主張を押し切り、これらを占領、要塞化した。20年にはインドとの国境で軍同士の小競り合いを起こした。

 台湾に対しては、中国の軍用機や艦船が圧力を強め、武力行使の可能性を繰り返し示唆している。中国は、在韓米軍によるミサイル配備を中国に対する侮蔑行為と見なし、韓国製品のボイコットで破壊的な損害を与えた。アジアの多くの国は、米国の対中姿勢が一貫しないため、中国に本気で対抗する気はないのではと疑念を抱き始めていた。

 AUKUSはこの疑念に対する反証となる。一つは軍事的側面においてだ。中国と一触即発の状態にあるシーレーンや島々をめぐって、原潜はディーゼル駆動の潜水艦よりはるかに応用が利く。太平洋やインド洋の海域で情報を集める。特殊部隊を展開する。何カ月も深海に潜む。中国の戦略立案者は、こうした動きを脅威として考慮せざるを得なくなる。

続きを読む 2/2 米国に求められる巧みな対応

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1701文字 / 全文3491文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。