中国は経済制裁や知的財産権がらみの商事紛争で、中国の司法判断を国際的に認めさせようとする動きを強める。中国企業に対する訴訟を他国で起こすことを禁じたり、中国に国際商事裁判所を開設したりしている。狙いは、中国が策定に加わらずにできた国際規則を作り替え、中国に有利な競争の場を導くことだ。

<span class="fontBold">習近平国家主席は知財法の海外適用拡大を求めた</span>(写真=新華社/アフロ)
習近平国家主席は知財法の海外適用拡大を求めた(写真=新華社/アフロ)

 中国共産党は2021年1月上旬に、「中国の特色ある社会主義法治」の発展を図る5カ年計画を公表した。内容は主に国内向けだが、一つだけ国際問題を扱う項目がある。そこには、中国は国際規則の制定に協力すべきだと書かれている。また、国際的な争議の解決に際して中国の司法が最優先に用いられるようにすること、さらには中国の規則が海外でも使われるよう促すことも求めている。

 この5カ年計画によれば、中国共産党は「公正で合理的」な国際規則の促進を目指すという。しかし、共産党の意図が世界を相手取った法律戦にあることが、この1年で次第に明らかになってきた。

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は中国の法的機関に対し、国際問題を扱う際にはより大胆な判断を下し、国際的な法律や規則の基準を作り替えていくよう求めている。中国共産党は、特許、海洋における権利、サイバーセキュリティー、制裁、犯罪者引き渡しを巡る争いなどの分野で、中国の国益を守り、さらに拡大するため、これまでとは異なる方法で自国の法制度を利用しているのだ。

他国での訴訟禁じる「禁訴令」

 今のところ最も目立つのは、欧米が科す制裁に対する中国共産党の攻撃的な対応だ。欧米は、イスラム教を信仰する少数民族であるウイグル族を中国が弾圧したとして制裁を科した。すると中国は、欧米諸国の政府関係者や学者を対象に報復制裁を発動した。

 さらに、外国からの制裁に応じた中国国内の企業に対して、資産の差し押さえや取引の禁止を命じられるようにした(この措置を中国本土だけでなく香港にも適用する案について、全国人民代表大会常務委員会が8月に採決する予定だったが、延期した)。

 その他、知的財産権などの分野でも、中国は法治についての独自の観念(共産党の絶対的指導下にある法治観念)を他国に広げていこうとしている。習近平国家主席は20年11月、党中央政治局の会議で、中国の知財法の「域外適用を促進」すべきだと発言。国際的な争議の場で中国の主張を強めることを求めた。

 米カリフォルニア大学バークレー校で中国知財法を研究するマーク・コーエン氏は、習近平国家主席は海外における中国の利益を守るべく、事実上「司法を武器化」したのだと指摘する。

 中国の裁判所は20年に、中国のスマートフォンメーカーが他国企業の知的財産を利用していることに関して、中国メーカーに対する訴訟を他国で起こしてはならないとする包括的命令を出した。このような命令は「禁訴令(訴訟差止命令)」と呼ばれる。中国企業が支払うべき特許権使用料を(外国の裁判所ではなく)中国の裁判所が決められるようにするものだ。

続きを読む 2/2 一帯一路も司法闘争の場に

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