気候変動問題が、伝統にのっとったワイン造りを重視するフランスのワイン農家に深刻な影響を与えている。今後は伝統にこだわらない革新性や柔軟性を持った生産手法を追求する必要があるが、対応は後手に回っている。様々な生産手法に挑んだカリフォルニアワインを見習わなければ、いずれ生産場所自体を替えなければならなくなる。

<span class="fontBold">フランスのワイン農家におけるブドウの収穫風景</span>(写真=Julien Goldstein/Getty Images)
フランスのワイン農家におけるブドウの収穫風景(写真=Julien Goldstein/Getty Images)

 ワインの収穫がままならなくなるであろう最初の兆しは、今年4月ごろに表れ始めた。ジュリアン・ドノルマンディー仏農相はこの件に関し「21世紀初頭で最も深刻な惨事となるだろう」と語った。以降、世界は幾つもの自然災害に見舞われた。

 9月7日、気候変動がワイン産業に及ぼす深刻な状況が明らかとなった。春の霜害と夏の大雨のせいで、今年のフランスワインの生産量が昨年水準を29%下回るとの見通しを仏農業省が発表したのだ。ドイツで洪水が起き、南欧全体を猛烈な熱波が襲い、米カリフォルニア州で干ばつの被害が拡大したことも記憶に新しい。

 何世代にもわたり同じ品種のブドウの収穫を続けてきたワイン生産者たちは、ワインが生育する環境、とりわけ土壌(テロワール)に強い自信を持っている。ボルドーやブルゴーニュ、シャンパーニュにおけるブドウ畑のテロワールは、神秘的とも言えるほど素晴らしい。これらの地域では、特別な土壌、そして特有の角度で降り注ぐ太陽の光の下で、驚くべきほど質の良いワインが生み出されてきた。

 伝統と一貫性は、ワイン愛好家からあがめられるワインを生み出す重要な要素だ。仏政府もこうした点を重視した上で、銘柄を厳格に管理している。だが最も伝統と格式を重んずる生産者でさえ、今や新たな環境に適応せざるを得なくなってきている。ブドウ畑の管理・運営方法を変えるか、さもなければ新しいブドウ畑を見つける必要に迫られている。

産地変更求められる可能性も

 1935年に制定された原産地統制名称(AOC)制度の枠組み自体が覆されるだけに、ボルドーのワインがほかの場所で造られるとは考えがたいことだ。ワインの生産方法や産地はこのAOC制度によって詳細に定められている。とはいえワイン生産者の中にはいずれ、生産地を替えることを余儀なくされるところが出てくるだろう。温暖化の影響で、すでに英国のスパークリングワインは、シャンパンの代用品として十分に通用する品質にまで高まった。

 チーズ、肉、魚、繊維など、産地を特定した製品の多くも、同じジレンマに直面することになるだろう。今後、テロワールは気候変動の影響をますます強く受けると予想される。生産者たちは食卓のあり方のみならず、自らの生活様式までもテロワールに沿って作り上げてきた。生活の基盤だった土地が、これまで通りの生活を続けるのに最適でなくなったら、どうすればいいのだろうか。

 筆者はこの夏、ブーツの形をしたイタリア半島のかかと部分に相当する、プーリア州で休日を過ごした。旅行中、枯れたり枯れかかったりしている無数のオリーブ畑を目にした。細菌による被害に見舞われたものと思われる。19世紀にフランスのブドウ畑がブドウネアブラムシの被害を受けて大打撃を被ったのと同じだ。枯れてねじ曲がったオリーブの幹は、今後押し寄せる災難を予言しているように感じられた。

 フランスに限らず、世界中のワイン生産地のブドウ畑に影響を与えている気候変動の影響は気づきにくいともいえる。暖冬により早々と膨らんだつぼみは、春の遅霜に当たるとひとたまりもない。猛暑の下ではブドウの糖度やワインのアルコール度数が高くなる。オーストラリアやカリフォルニアでは山火事の煙がブドウ畑にまで流れ込み、苦みが強くて灰臭いフレーバーのワインが出来上がる。

 温暖化がもたらす利点もある。ブルゴーニュやシャンパーニュ、アルザス、ロワール渓谷など、伝統的に冷涼な地域は、気温上昇がプラスに働く可能性が指摘されている。南欧が酷暑にさらされる一方で、オーストラリアでは2050年代までにブドウ栽培に適した土地が2倍に拡大するとの研究もある。

続きを読む 2/2 ボルドー、新たに6品種を追加

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1608文字 / 全文3372文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。