新学期が始まり、習近平思想を教える目的のためだけに編まれた教科書が小学校から大学までに配布された。中国はこうした個人崇拝について、毛沢東時代への反省から慎重な姿勢を示していたが、転換した。新しい教科書は、習近平国家主席はあらゆる事柄の権威で、同氏に忠誠を誓うことが正しいことだと説く。

<span class="fontBold">「党への愛、国への愛、社会主義への愛」を説く</span>(写真=AFP/アフロ)
「党への愛、国への愛、社会主義への愛」を説く(写真=AFP/アフロ)

 中国のエリートたちに「国の指導者である習近平(シー・ジンピン)国家主席の信条を説明してほしい」と頼んでみよう。政府高官や一流大学の教授、著名なコメンテーター、大企業の経営者といった人々にだ。誰に聞いても、その回答は驚くほど参考にならない。ごく簡単な問いについても、戻ってくるのは曖昧な答えばかりだ。

 国内の大企業の一部、とりわけテクノロジー関連の巨大企業の活動を制限する現行の政策を例に取ろう。

 当局はこれまで、さまざまな理由でこれらの企業を非難してきた。「暴利をむさぼっている」「データの扱いがぞんざいで国の安全保障を危険にさらす」「従業員を酷使している」「中小企業に対して居丈高だ」「依存性のあるビデオゲームを提供したり、オンライン上にファンクラブを設立したりして、若者層の消費者を食い物にしている」

 習近平国家主席はイデオローグとしての姿をあらわにしつつあるのだろうか。成長を犠牲にしても中国共産党による経済支配を再開したいとやっきになるイデオローグとしてだ。それとも、同国家主席はもっと実利的な人物なのだろうか。つまり、内政を安定させつつ、国外では中国を強大な存在に仕立て上げる、ナショナリストの絶対的指導者なのか。

 こうしたテーマは、中国の高官同士の会話で話題になることはあっても、一致した見解は存在しない。

個人崇拝への慎重さが緩む

 大人たちでさえこのように当惑している状況を鑑みると、習近平国家主席が抱く政治哲学を教え込むため、全ての児童・生徒・学生向けに新しい教科書を配布したのは大胆な試みだ。この思想は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」として知られる。配布の対象は小中学校、高校、大学と幅広い。

 中国では新学期が9月1日にスタート。教師や講師は各学年向けに作成された新しい教科書の配布を始めた。下は6歳の児童までがその対象だ。中国は過去数十年にわたり、現職の政治指導者を取り上げる単独の教科書の使用は個人崇拝につながりかねないとして慎重な姿勢を保ってきた。こうした時代が終わりを告げる。

 前回、一人の人間の見識を扱う書物が数億に上る若者に配布されたのは毛沢東の時代だった。毛沢東を対象とする個人崇拝は惨事を招いた(彼はこの個人崇拝の扇動者でもあった)。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2195文字 / 全文3319文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。