中国の習近平政権が格差縮小に動き始めた。旗印は「共同富裕」だ。規制強化の後を追うように、中国の巨大テック企業が寄付の規模を拡大させている。この動きは同政権の意向をおもんばかってのこと。慈善団体幹部は、真の慈善がしぼむことを懸念する。

<span class="fontBold">ジャック・マー氏は以前から寄付に積極的に取り組んできた</span>(写真=アフロ)
ジャック・マー氏は以前から寄付に積極的に取り組んできた(写真=アフロ)

 中国電子商取引大手アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は出身地の浙江省杭州市に居を構える。そのぜいたくな邸宅では、国家湿地公園内で取れる食物が食卓に上る。この邸宅は、同氏が市内に保有する広大な不動産のごく一部にすぎない。

 「馬氏には『市の半分を所有する馬さん』というニックネームがある」。1000万人が住む杭州市政府の元役人で、アリババで10年以上働いた経験を持つある男性はこう話す。男性によれば、馬氏が保有する不動産の一部は馬氏自身が購入したものだが、一部は寄付のお礼として杭州市政府から贈られたものだ。

 中国の大物実業家による行き過ぎた金遣いは長年にわたり伝説になってきた。彼らは香港のビクトリア・ピークから英ロンドンのケンジントン・パレス・ガーデンズ、米ニューヨークのアッパー・イースト・サイドまで、世界で最も高価な不動産を買いあさった。英国のサッカーチーム、フランス・ボルドーのぶどう園、米ハリウッドの映画制作会社、国際的な新聞社といった著名な資産も買い集めてきた。

 そして今、巨大テック企業を率いる、馬氏をはじめとする億万長者たちは、火急の任務に大わらわだ。その任務とは、公益事業などに多額の寄付をしたり寄付の約束をしたりして、社会主義の精神を示すことである。

厳しい規制の後に寄付拡大

 彼らが突然、博愛精神を高揚させたため、企業の金庫や個人の銀行口座に蓄えられていた何十億ドル(数千億円)ものお金が、格差是正という国家目標の実現に向かって流れた。中国の最も富裕な人々や最も成功した企業が、習近平(シー・ジンピン)国家主席の怒りを買うことを恐れ、同氏に追従した結果である。

 しかしながら、国内の慈善団体の関係者は、こうした動きに懐疑的だ。その背景には、国家による統制が強まるとの懸念がある。

 政府はテック企業を狙い撃ちにする規制や締め付けを繰り返し繰り出してきた。これらの措置により、国内最大手企業の一部は企業価値に数百億ドル(数兆円)のダメージを受けた。その創業者たちも個人資産に大きな打撃を負った。高額の寄付が次々と行われるようになったのは、この後のことだ。

 「(寄付をする側にとって)最も恐ろしいのは、どれだけの寄付をすれば十分なのかが分からないことだ」。北京で活動する大手慈善団体の幹部はこう語る。「彼らにできるのは、競合が行う寄付の額を見て、自分も同程度の寄付をするよう努めることだけだ」

続きを読む 2/2 真の慈善を減らす懸念

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