アフガニスタンを掌握したタリバンに対して中国政府は、実利に基づく関係を構築しようとしている。タリバンは中国に外交、経済面での支援を期待する一方、中国はタリバンがウイグル族を支援しないようけん制する。利害上さほど重要でないアフガニスタンに対し、中国はリアリズムに徹した対応を取ろうとしている。

<span class="fontBold">2021年7月、タリバン幹部のアブドゥル・ガニ・バラダル師(左)と会談する中国の王毅外相(右)</span>(写真=新華社/アフロ)
2021年7月、タリバン幹部のアブドゥル・ガニ・バラダル師(左)と会談する中国の王毅外相(右)(写真=新華社/アフロ)

 アフガニスタンの反政府勢力だったタリバンが首都カブールを再び制圧したことで、街中が恐ろしい状態となった8月17日午後、中国の駐アフガニスタン大使は、大使館の平穏な様子をスマホで撮影した。

 この画像を中国共産党系の機関紙「環球時報」の編集長、胡錫進氏は喜々としてSNSに投稿した。大使館の屋根には中国の国旗が夏空にはためいている。玄関脇には物々しい警備員の姿もなく、ただ背の高い磁器のつぼがひっそりと置かれているだけだ。

 アフガニスタン政府の崩壊は、今のところ中国政府やメディアの情報宣伝活動にとって有利に働いている。中国の外交官や国営メディアは、ここぞとばかりに米中の違いを強調している。米国とその同盟国が混乱のうちに撤退しつつあるのに対し、中国は良好な関係を保っているとアピールする。中国にとって、少女たちが学校に通えるようになる、よりよいアフガニスタンを建設するといった高尚な理想論を振りかざす気はさらさらない。タリバンの政権掌握を、実利に基づいて冷静に計算された安全保障と、経済的な利益に基づく外交関係を推し進める、絶好の機会と捉えているにすぎない。

 中国とタリバンは、感情的な絆や信頼関係で結ばれているわけではない。中国はここ数年タリバンの代表者たちとの接触を深めてきたが、目指していたのは、極めて限定的な目標の実現だった。そのうちの一つは、アフガニスタン情勢の安定、とりわけ中国に接する短い国境沿いの山岳地帯の治安情勢を平穏に保つことだった。

 そして中国が何よりもはっきりと主張したのが、新疆ウイグル自治区からの亡命者の拒否だ。タリバンが喉から手が出るほど欲しがっている国際社会からの承認、道路や鉱山へのインフラ投資(かなり限られた額になると考えられる)が欲しければ、亡命者を受け入れないとはっきり明言してほしいと中国側は考えている。

 中国は、ウイグル族の武装勢力がアフガニスタン経由で新疆ウイグル自治区に入ろうとすることを恐れている。武装勢力の中には、シリアで戦闘を経験したり、イランで訓練を受けたりした者たちがいる。

 タリバン側からすると、中国が新疆ウイグル自治区でモスクを破壊したり、信仰が強すぎるイスラム教徒を「治療」するために強制収容したりする弾圧的な支配は、自分たちが掲げるイスラム教の信条を真っ向から踏みにじるものだ。それでもタリバンは中国の支えを必要としている。タリバンの政治的指導者、アブドゥル・ガニ・バラダル師は7月28日、中国外相に、タリバンはいかなる勢力にも「中国にとって不利益な行為をする」ためにアフガニスタン領を利用することを許さない、と語った。これは当然のことだ。

続きを読む 2/2 アフガン対応を外交カードに

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