中国で、かつて共産党の紅軍が身に着けた制服のレプリカが売れている。人々はこれを身に着け、共産党の聖地をめぐるツアーに参加する。ナショナリズムの高まりを示す動きといえる。ただし、ノスタルジアは選択的だ。文化大革命のつらい思い出は避けて通る傾向がある。

共産党の聖地をめぐるツアーに参加する人々(写真=AFP/アフロ)

 5~6年前、中国では多くの人が依然として、米国の文化を新しさと楽しさの象徴と捉えていた。それゆえ当時、ハロウィーンは中国・曹県にとって大きなビジネスの種だった。この町は、中国東部・山東省に位置しており、中国軽工業のハブになっている。

 曹県当局によればこの地域は、子供用の安価なパーティー衣装や、学校の音楽会で着る衣装などを製造する中国最大の産地だという。さらに、小さな工場から政府機関まで様々な職場で開かれるにぎやかな催しに用いる衣装も製造している。

 これらの衣装を扱う業者のレン・ヤーフェンさんはこう語る。「曹県の起業家は少し前まで、かぼちゃの衣装や魔法使いのマントなどハロウィーンにまつわる1カ月分の売り上げだけで1年暮らすことができた」。この発言には恐らく若干の誇張が混じっているが。

 ところが、中国において米国のイメージはこの3年の間に輝きを失った。加えて、消費者はより愛国的になっている。その背景として、中国共産党のプロパガンダが効果を上げたことや、米国のドナルド・トランプ大統領(当時)による制裁の嵐が4年のあいだ吹き荒れたことが挙げられる。

 市場のシグナルは曹県にもすぐさま伝わった。この町は、電子商取引を通じて消費者と直接につながっている。レンさんが生まれ育った孫庄の当局者によれば、同地区の世帯のほぼ4分の3が、淘宝網(タオバオ)、1688.com、拼多多(ピンドゥオドゥオ)などのオンラインプラットフォームを利用して商品をネット販売している。

共産党の聖地をコスプレ訪問

 中国共産党は7月、創立100周年を祝う式典を実施した。曹県には年初から、かつての共産党軍「紅軍」の兵士が身に着けた制服(紅軍服)のレプリカへの注文が引きも切らず入ってきた。

 学校は10年以上前から学芸会用に子供サイズの紅軍服を購入してきた。だが紅軍服を身に着けるのは子供たちだけではない。紅軍服は今日、党がお墨付きを与えた「紅色旅游」に参加するグループにとってほぼ欠かせない衣装になっている。長征の際に使用した基地や、共産党が凄惨な敗北を喫したものの戦意の鼓舞につながった戦場など紅軍ゆかりの地を訪問する催しだ。

 レンさんは1月以降、トウモロコシ畑とアヒルが泳ぐ池の間の交差点にある倉庫から、10万着の紅軍服を出荷した。年末までに同じくらいの数量を出荷したいと希望している。

 大人の男女が1930年代の兵士をまね淡いブルーやグレーの丈の長い制服を身にまとい、赤い星を縫い付けた八角の帽子を被って歩く姿は、近年の中国における最も印象的な光景の一つだ。

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