新型コロナのパンデミックは、労働のオートメーション(自動化)に拍車をかけるとの予測がある。しかし機械化や自動化に向けた動きは停滞しており、各国の労働市場は人手不足にあえいでいる。人間の雇用が奪われるとの警告は根拠に欠けており、そこには政策的・心情的な思惑も込められていそうだ。

<span class="fontBold">コロナ禍では食品配達ロボットも誕生した</span>(写真=ロイター/アフロ)
コロナ禍では食品配達ロボットも誕生した(写真=ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの新規感染者数が抑えられるようになり、経済活動は再開しつつある。それに伴い労働力不足は一層悪化する傾向にある。仕事があるにもかかわらず、それに従事する人がいない状態を示す未充足求人数は米国で930万人と、過去最高を記録した。カナダの求人数は、パンデミック(世界的大流行)前の水準を20%上回る。ロックダウンからなかなか抜け出せない欧州でさえ、人手の確保が難しいとこぼす雇用主が増えている。

 これまでの労働力不足にまつわる議論の焦点は、その多くが不足によって公的サービスの質が低下することや、経済が混乱するといったことが中心だった。だが、今回はさらに深い考察が必要になっている。この人手不足は、労働力はロボットに置き換わるだろうという「神話」に対しても疑問を投げかけているからだ。

 経済学者たちは、人間から仕事を奪うロボットたちが大挙して押し寄せ、労働市場を席巻するだろうと自信たっぷりに語る。国際通貨基金(IMF)の調査は、「パンデミックはオートメーションに対して脆弱な分野においても、雇用を減少させる効果があった」と結論づける。ノーベル賞経済学者、ジョセフ・スティグリッツ氏も最近の共著論文の中で、新型コロナがもたらした経済活動の制限によるコスト増が「人間の仕事を自動化する新技術の開発および採択を加速させている」と指摘する。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者、ダロン・アセモグル氏は2020年に米連邦議会で証言した際に、「労働者を機械に置き換える」企業が増えていると示唆した。

コストを下げるために機械化

 しかし、雇用主が人手不足を嘆いているとしたら、パンデミックによるオートメーションが大量の余剰労働者を生み出している点を、どう説明すればよいのだろうか。

 確かに、人間の仕事を奪う機械化や自動化が進展する、と経済学者が考えるのにはそれなりの理由がある。企業は不況時にロボットを導入することが多い。これは、売上高が落ち込んでも賃金はすぐに下がらないため、コスト要因になりやすい点が関係している。コストが下がらない点が、経営者にとっては機械化を進めるインセンティブになるのだ。

 ロボットにソーシャルディスタンスは必要ない。病気にかかることもない。加えて政府の景気対策のおかげで手元資金は豊富な状態だ。企業がロボット技術や人工知能(AI)ソフトウエアに資金投入するのは極めて理にかなっているといえよう。

 オートメーションが加速していると信じる人々が根拠として挙げることのできる事例はいくつもある。米オハイオ州のファストフードチェーン、リーズ・フェイマス・レシピ・チキンは、ドライブスルーの注文に対応する自動音声システムを導入した。米ピッツバーグ国際空港は最近、紫外線で殺菌をする米国初の清掃ロボットを導入した。英国のイチゴ農家は収穫・除草機械の台数を増やしていることを自慢する。「パンデミック」と「オートメーション」、両方の言葉を含む報道記事は、年率換算すると前年比で25%増えているという。

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