米国で、ワクチン接種を望む人の数が伸び悩んでいる。7月4日を期限とする政権の目標に黄信号がともる。無料ドーナツなどの“ご褒美”を提供する施策が広がる中、注目されるのは行動科学に基づく「説得」だ。「地域で信用されている、相応の年齢の人物」による説得が効果的だという。

米国ではワクチン接種の希望者数が伸びず、余剰も懸念される(写真=AP/アフロ)

 米国のジョー・バイデン大統領は時間との戦いに直面している。同大統領は5月、新型コロナウイルスワクチン接種を少なくとも1回受けた成人の割合を7月4日までに7割にする、との目標を掲げた。実現すれば、米国市民が集って独立記念日を祝うことができるようになる。

 米疾病対策センター(CDC)などのデータによると、ワクチンの接種率はこの冬の終わりから初春にかけて急増し、6月第2週の初めまでに1億6400万人(成人の64%)が少なくとも1回目の接種を済ませた。2回目の接種を終えた人の数も1億3600万人に上る。

 だが新たに接種を受ける人の数を週単位で比較すると、4月からほぼ連続して減少している。

 何が問題なのか。ワクチン不足や流通が問題であるはずはない。筆者がかつて懸念したのと反対に、ワクチンの流通は現在うまく組織化されている。

 接種する人が減少しているのは、そう容易には変えることのできないものが原因だ。文化(人の行動様式と思考)と言ってもよいだろう。

今必要なのは医学ではない

 英インペリアル・カレッジ・ロンドンのグローバル・ヘルス・イノベーション研究所が先進国15カ国を対象に最近実施した調査で、ワクチンは「信用できない」と答えた割合は米国の未接種者が最も高かった。この結果はワクチンのメーカーを問わない。

 バイデン大統領率いる対策チームにとって、こうした人々の態度をいかに変えるかが課題となっている。しかも早急に変えなければならない。それに必要なのは、医療科学でも経営科学でもデータサイエンスでもない。社会科学である。

 幸いなことにバイデン政権はこれを認識しているようだ。バラク・オバマ政権時代、米政府は政策を立案する際に行動科学者に助言を求めていた。しかし、この役割を担っていた組織はドナルド・トランプ大統領(当時)によって廃止された。そして今、バイデン大統領はオバマ時代のアプローチの強化に乗り出している。

続きを読む 2/3 罰でもない、ご褒美でもない、「説得」

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