供給制約は一時的な現象

 加えて、現在のインフレ圧力のほとんどは、供給の短期的なボトルネックから生じている。一時的に停止していた経済を再び動かすに当たって、こうしたボトルネックが発生するのは避けられないことだ。

 世界的に自動車や半導体の生産能力が不足しているわけではない。だが、すべての新しい自動車が半導体を使用するようになった一方で、自動車の今後の需要を見通すのが困難で不確実ならば(パンデミックの渦中がそうだったように)、半導体の生産は削減されることになる。

 より一般的に言うなら、複雑に絡み合った世界経済において、生産に必要なすべてのインプットを適切に調整するのは極めて困難な作業だ。我々は普段、この一連の作業を当然のことと受け止めている。それは、これまであまりにうまくいってきたからであり、ほとんどの調整は“隅の方”にとどまっていたからだ。

 現在は、通常のプロセスが中断された状態だ。一時的な供給制約が生じ、いくつかの製品において価格が上昇する事態は十分にあり得るだろう。しかしながら、こうした事態がインフレ期待を高め、インフレ機運を勢いづかせると考える理由はない。世界全体で生産能力が過剰になっている現状に照らすならばとりわけ、懸念する理由は見当たらない。

 今、需要が供給を上回っており、これがインフレを引き起こすと警告する人々がいる。だが、次のことは覚えておいてよいだろう。こうした論者の中には、(ゼロ金利の下でさえ)総需要が十分に存在しないため、「景気は持続的に低迷する」局面にあると最近まで主張していた人がいるのだ。

 長期にわたる深刻な格差が新型コロナウイルスの感染拡大によって露見した国や、格差に拍車がかかった国においては、労働市場の逼迫こそ最良の処方箋となる。労働需要が高まれば、低所得層の賃金が上昇し、社会からはじき出されていた人々が労働市場に戻るよう促される。

 もちろん、現在の米労働市場の逼迫度合いについては議論の余地がある。職に就いている人の数が新型コロナ危機前の水準を依然として下回っているにもかかわらず、労働力が不足していると報告されている。

<span class="fontBold">人手不足は、行きすぎた失業給付が原因か</span>(写真=ロイター/アフロ)
人手不足は、行きすぎた失業給付が原因か(写真=ロイター/アフロ)

 共和党は、現在の失業保険給付はあまりに気前が良すぎると非難する。けれども、米国各州における労働力の供給状況を比較した計量経済学の研究は、この種の給付が労働意欲をそぐ効果は限定的であることを示している。

 いずれにせよ、新型コロナウイルス感染症が経済にもたらす影響が長引いても、失業給付の増額措置は今年秋には終了する予定だ。

 インフレ率の上昇に直面してパニックに陥ることよりも、一連の期間限定の経済対策が終了し、提供される資金が枯渇した時、総需要がどうなるかの方を懸念すべきである。最低の所得しか得られない層や、富の分配にあずかることができなかった層の多くは、負債を大きく膨らませた。中には家賃を1年以上滞納している人々もいる。こうした人々が立ち退きを猶予されているのは、一時的な保護措置があるからだ。

 負債を抱えた人々は支出の切り詰めを余儀なくされる。これが経済に与えるネガティブな影響が、富裕層の支出拡大で相殺される公算は小さい。パンデミックの間、富裕層の多くは貯蓄を拡大した。

 過去16カ月にわたり、耐久消費財への支出は堅調に推移してきた。ここから判断すると、富裕層は追加的な貯蓄を他の一時所得と同じように扱うと思われる。つまり、投資に向けるか、何年もかけてゆっくりと消費するかだ。したがって、新たな財政出動がない限り、経済は再び総需要不足の状態に陥る恐れがある。

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