中国で「子どもの日」に合わせて、かつて首相を務めた周恩来の少年時代を描いた映画が公開された。1970年代に書かれた伝記は、少年時代から「封建社会への反逆者」だったとするが、描き方が変わってきた。この映画では、名家の出の周少年が儒教的な倫理に基づく愛国心を現代の子どもたちに訴えかける。

周恩来(中央)は首相として、中国を四半世紀にわたって統治した(左は毛沢東)(写真=アフロ)

 国家が子ども向けに愛国のメッセージをつくる際には、意義深い内容を選び出す必要がある。好意的に表現するなら、子どもの心は小さな宝箱で、国の最も大切な信念だけを収めるべきだからだ。より率直に言うと、子どもはほかのことに気をとられやすいため、少数の大切なことだけを教えるのが一番である。

 この点を踏まえると、中国の情報宣伝機関の幹部らがこの夏、子ども向けにどのようなメッセージを用意したかは知る価値がある。6月1日の「国際子どもの日」は、例年通り祝日となり、子どもたちは博物館や遠足に行ったり、健全なゲームをしたりして楽しんだ。1カ月後の7月1日にはさらに大掛かりなイベントが待っている。1921年に結党した中国共産党の100周年を祝う行事だ。

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、子どもたちには「習大大(シーダーダー、習おじさん)」という呼び名で紹介されている。謹厳だが思いやりのある家長のイメージだ。

 習国家主席は忠誠の重要性を強調する。それゆえ児童合唱団はしばしば「私と私の祖国」「中国共産党の指導に従う」といったテーマの歌曲を演奏する。

 共産党の歴史も、大衆の気持ちを高めるのに利用される。この観点から見ると、幼稚園で園児が小さな軍服をまとい麦わらで包んだ「配給食糧」を手にほふく前進をさせられたという話も理解できる。紅軍の補給作戦を再現しているのだ。

 中国は繁栄する強国として世界に影響力を及ぼす「新時代」を迎えつつあるという話が盛んに語られる。その影響で、子どもが描いた中国国旗付きの高速鉄道や宇宙ロケットの絵が公共の場に展示されているのを目にすることも多い。子どもたちは、中国は世界で最も古くから綿々と続く文明であると教えられ、その後継者として古代の栄光にも誇りを抱くよう促されている。

見直された儒教的倫理

周恩来(左)は日中国交正常化でも大きな役割を果たした。右は田中角栄首相(当時)(写真=AP/アフロ)

 今年の子どもの日には、特に子ども向けに制作された新たな愛国映画「童年周恩来」が公開された。周恩来は、49年からがんで亡くなる76年まで中国の首相を務めた人物だ。映画はその周恩来の10代初めまでの少年時代を描く。

 この聡明でありながら期待を裏切った人物は、歴史家を悩ませている。多くの中国人は今も周恩来を、毛沢東の最悪の非道な行為を抑えた穏健派として高く評価している。とりわけ66~76年の文化大革命の時期にこの役割を果たした。

 しかし残念ながら、周恩来が毛沢東の愚行を許し、親しい同志たちを政治的な攻撃から守れなかったことを示す史料があまりに多く存在する。

続きを読む 2/2 革命後も保守的な文化

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