昨年来繰り返されてきたロックダウンが解除され、英国のレストランやパブには人出が戻りつつある。賃金や雇用情勢は急回復しているが、サービス業がパンデミック前の需要を回復するのは一筋縄ではない。家計の貯蓄率は過去最高の水準にあり、多くのお金が消費に向かいそうだが、景気が過熱することはなさそうだ。

 英ロンドン郊外のスティーブニッジにある複合レジャー施設「スティーブニッジ・レジャーパーク」内にある、グリルチキンが人気のレストラン「ナンドス」は5月17日、再オープンを果たした。様子は至って控えめで、当日はテープカットも客が長い行列をつくることもなかった。それでも、店を訪れた若者たちは、昨年12月に英政府がレストランの休業命令を出して以来、初めて店内で食事ができることに満足していた。

 テーブルの3分の1が埋まる程度の客しか集まらなかったが、月曜日のランチタイムとしては期待以上だ。同店の店員は、施設内の映画館とボウリング場が今年夏に再開するまでは満席に戻ることはないだろうと話す。

失業率は急回復の傾向

 しかし、レジャー施設が再開していないにもかかわらず、施設内のレストランが普段より忙しいのは、英国の人々が外出してお金を使う意欲があることを意味している。

 レストランはまずまずだったが、パブはさらに景気が良かった。英国大手パブチェーン「ウェザースプーン」のスティーブニッジ店は大型店舗だが、夕刻前だというのにすべての席が埋まっていた。あるテーブルでは、店長がキッチンスタッフの仕事を探している10代の学生を面接していて、「すぐに働けるか」と質問していた。

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営業が再開された英国のパブはにぎわいを見せている(写真=Dan Kitwood/Getty Images)

 英国経済は1709年以来311年ぶりの落ち込み幅を記録した後、急回復している。実際、あまりに速い回復のスピードに、景気過熱のリスクを心配し始める人もいるくらいだ。5月18日に発表された雇用関連の指標では、失業率の低下と賃金の伸び率の回復が見られた。19日には4月の消費者物価指数(CPI)が発表されたが、対前年同期で1.5%上昇と過去10年で最高だった。3月は0.7%上昇だった。

 とはいえ、こうした状況を過熱と言うのはまだ時期尚早だ。消費者物価を押し上げた主な要因は、国内の景気動向ではなく、世界的なエネルギー価格の上昇なのだから。経済調査会社パンセオン・マクロエコノミクスのサミュエル・トゥームズ氏は、現時点では「営業を再開したサービス部門においてインフレが急拡大している兆しは見られない」と話す。

 賃金の上昇率も予想を上回ったとはいえ、雇用統計上の数値としては驚くレベルではない。英政府統計局(ONS)の発表によると、2021年1~3月期の平均週間賃金は前年同期比で4.6%上昇だった。しかし、統計の専門家はこの値について、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の状態と比較して、低賃金労働が減少したことを反映したものだ」と分析する。こうした労働市場の構造変化を勘案すると、上昇は3%にとどまる。確かに、求人サイトなどでは、低賃金労働の賃金を上げる動きはほとんど見られない。

 ホテルや飲食店など、接客が必要なホスピタリティ業界では、多くの経営者が人手不足に悩まされているという。しかしこの業界に関しては、他の業界と分けて考える必要があるだろう。

 この業界の人手不足の大きな要因となっているのが、欧州からの移民労働者の流出と、在宅勤務の増加によって起こった経済地理学的な変化だ。ホスピタリティ業務に従事していた人々の多くは現在、人手が必要とされる都市部から姿を消してしまった。

 賃金を適度に上昇させることで市場の再調整メカニズムを働かせれば、労働者は再び必要な場所に戻ってくるだろう。よって、労働力不足が経済の回復基調に水を差す要因になるとは考えにくい。

続きを読む 2/2 支出減少で貯蓄率が大幅増

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