ワーナーメディアとディスカバリーの統合はネットフリックス、ディズニーに並ぶ動画配信「第3極」の誕生を意味する。動画配信業界はロックダウン解除後、伸び悩みが見られ始めており、シェア獲得のための再編気運が高まっている。アマゾンなどによるメディア買収計画も取り沙汰されているだけに、力のない企業は市場退出を余儀なくされそうだ。

 米ディスカバリーは5月17日、同じメディア企業の米ワーナーメディアと統合することを発表した。ワーナーメディアは現在の親会社である米通信大手AT&Tから分離することになる。

 統合後の新会社は、売上高で米ウォルト・ディズニーに次ぐ世界第2位のメディアグループとなる。その規模を武器にして視聴者の奪い合い競争を勝ち抜く算段だ。メディア企業間で繰り広げられる激しいシェア争いの前には、「ゴジラvsコング」での闘いですら、かわいいものに見えてくる。

<span class="fontBold">動画配信業界の競争は「ゴジラvsコング」の闘いより激しい</span>(写真=ユニフォトプレス)
動画配信業界の競争は「ゴジラvsコング」の闘いより激しい(写真=ユニフォトプレス)

 統合発表は、まるでハリウッド映画を見ているような急展開だった。この発表に触発されたほかのメディアが、手遅れにならないうちにと大慌てで提携相手を探し始め、今後は合併話が相次ぐのではとの臆測も飛び交っている。

 一見したところ、ワーナーとディスカバリーの統合は奇妙な組み合わせだ。ワーナーは、ファンタジードラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ゴジラ」「キングコング」シリーズなど、製作費をかけてテレビドラマや映画を作る。それに対し、ディスカバリーは低予算のドラマやドキュメンタリーを主力とする。だが、両社が違うタイプの番組を大量に制作していることが、より幅広い視聴者への訴求につながるはずだ。

 両社が2020年にコンテンツに注ぎ込んだ資金は合わせて190億ドル(約2兆1000億円)。ディズニーや米ネットフリックスを上回る。米国のケーブルテレビ視聴者数で見ても、新会社は最大のシェアを誇る。米調査会社モフェットネイサンソンによれば、20年のケーブルテレビ総視聴時間の29%を両社のチャンネルが占めていたという。これだけの影響力があれば、新会社はコンテンツ使用料や広告料の交渉で有利な立場に立てるだろうと、モフェットネイサンソンは見ている。また、新会社は統合で年30億ドル(約3300億円)のコスト削減効果を見込んでいる。

AT&T傘下では成長できず

 AT&Tの側からすると、この統合計画は、巨額の資金を注ぎ込んできたエンターテインメント業界への参入計画が失敗だったと認めるに等しい。同社は16年にタイムワーナー(後にワーナーメディアに社名変更)を854億ドル(約9兆4000億円)で買収した。その前年には、衛星放送のディレクTVを670億ドル(約7兆3000億円)で買収した。コンテンツの制作と配信の「垂直統合」を図ったのだ。

 しかし、この組み合わせはうまくいかなかった。さらに悪いことに、規制当局のせいでタイムワーナーの買収完了が2年遅れている間に、ディズニーなどの競合が着々と力を付けてきた。

 AT&Tは、21年2月には買収した企業の「切り離し」を始めている。まずディレクTVを米ファンドに売却したが、その際の評価額は160億ドル(約1兆7000億円)で、価値は5年の間に約7割下がっていた。

 今回、ワーナーメディアを分離させるに当たって算出された企業価値は、約1000億ドル(約11兆円)だった。この数字を見る限り、ほかのメディアが急速に成長した期間、AT&T傘下に入ったワーナーメディアの価値はほとんど伸びなかったことになる。

 新会社の経営は、ディスカバリーのデビッド・ザスラフCEO(最高経営責任者)の手に委ねられる。昨年ワーナーメディアのCEOに登用されたジェイソン・カイラー氏の椅子は、新会社にはない。

 技術畑出身のカイラー氏は、ワーナーの動画配信サービス「HBO Max」の推進に全力を傾けてきた。20年12月には、傘下の映画製作会社ワーナー・ブラザースが21年中に公開する映画はすべて劇場公開と同時にHBO Maxで動画配信すると発表。伝統を重んずるハリウッド関係者を怒らせた。今、彼らの多くが胸をなで下ろしているはずだ。

 両社の統合はやむにやまれぬ事情があり、不格好な面もあるかもしれないが、必要不可欠であったと考えてよい。

続きを読む 2/2 アマゾン、アップルも買収計画

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