米国のワクチン接種は、希望者の需要を満たす段階から、接種をためらう人を促す段階に達した。その方策の一つがインセンティブの提供だ。お金、ビール、ドーナツ。果てはマリフアナまで登場する。識者は、ワクチンを忌避する人々の考えを変えることは困難だが、思案している人には効果が期待できるとみる。

接種を受ける青年(手前)と、接種後のビールを楽しむ年かさの男性(奥)(写真=ロイター/アフロ)

 お金。博物館の入場券。果てはマリフアナ──。これらは、新型コロナウイルスワクチンの接種をためらう人たちの考えを変えるべく、米国の州政府や企業が提示する特典の一部だ。

 米政府は1日に数百万回のワクチン接種を続けている。これまでは、より多くの人に接種することに重点を置いてきたが、最近は、接種を渋る個人をターゲットとする方針に変わってきた。新たな変異株の感染拡大を恐れてのことだ。人口の大半が接種を済ませなければ、集団免疫を得られないとの懸念もある。

 企業や地方当局、州当局はワクチンへのためらいを解消すべく、まだ接種していない人々の関心を引く施策に取り組んでいる。

 メリーランド州は5月3日、ワクチン接種を完了した州職員に100ドル(約1万800円)を支給すると発表した。また今後、国の衛生当局が免疫力を高めるための追加接種を推奨した場合、これを拒否する職員にはペナルティーを科すという。

 同州のラリー・ホーガン知事は「こうした報奨制度は、ワクチン接種を促進するものだ。州内の企業に対しても、従業員へのインセンティブ付与を検討するよう強く勧める」と語る。

 ニュージャージー州では「ショット・アンド・ア・ビア」という名のプログラムを実施中(「ショット」は注射の意味)だ。5月中に1回目の接種を受けた21歳以上の居住者が、ブリュワリー(ビール醸造所)にワクチン接種カードを持参すると、ビールを無料で1杯獲得できる。この制度に参加するブリュワリーは13に上る。

アマゾンやマックも動き始めた

 ミシガン州デトロイト市では、ワクチンの接種会場まで車で人を送っていくと50ドル(約5400円)相当のプリペイド式デビットカードがもらえる。マイク・ダガン市長は「デトロイトに暮らす人のワクチン接種を阻む障害は一切あってはならない。『交通手段がない』という事態はもってのほかだ」と主張する。

 米国におけるワクチン接種の主眼は、大規模な接種センターからコミュニティーの拠点へと移りつつある。独ビオンテックと米ファイザーが共同開発したワクチンは5月末以降、これまでより小分けしたパッケージ(小瓶25本入り)で薬局や小規模拠点に出荷することになった。ただし、195本入りの従来型パックも引き続き必要な場所に届けるとファイザーは説明する。

 米国の雇用主たちも、従業員のワクチン接種を促すべく対策を講じている。アメリカン航空は米国の拠点で働く従業員に追加の休暇1日と50ドル(約5400円)の報酬を提供する。アマゾン・ドット・コムは最前線で働く従業員に対し、接種を完了した場合に80ドル(約8700円)を支給する。

続きを読む 2/2 ワクチン忌避は変えられないが

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