中国のIT企業は積極的に元役人を雇用し、習政権の下で強まる締め付けをかわそうとしている。実際、規制当局の元幹部を引き抜いたアリババは、独禁法違反への処罰が予想より軽く済んだ。中国政府はこうした動きに制限をかけているが、規制システムそのものへの信頼が揺らいでいる。

ジャック・マー氏は規制当局を批判する発言がきっかけで、公の場から姿を消している(写真=AFP/アフロ)

 中国では、政府機関で働いていた元役人を雇い入れる大手IT(情報技術)企業が増えてきた。これは、習近平(シー・ジンピン)国家主席が強めつつあるIT業界への締め付けをかわす努力の一つとも捉えられる。

 欧米では、政府と民間企業の間を行き来する人材の存在はそれほど珍しくない。だが中国では最近まであまり聞かれない話だった。

 しかし、習国家主席が世界第2位の経済大国を支える企業たちに対する中国共産党の支配力を強める中、中国でもこのような官民の垣根を越えて「転身する」人材が次第に多く見られるようになってきた。

 元役人をどこよりも多く採用してきたのは、億万長者の馬雲(ジャック・マー)氏が創業した電子商取引(EC)大手のアリババ集団だ。中国で最もよく知られる起業家である馬氏は、2020年10月に規制当局と国有銀行を批判する発言をきっかけに当局ににらまれるようになり、公の場からほぼ姿を消した。11月には、アリババ傘下の金融会社アント・グループが香港市場と上海市場で計画していた370億ドル(約4兆円)規模の株式上場が、当局により差し止められた。

 公表されている記録を本紙(英フィナンシャル・タイムズ)が調べた限りでは、アリババのほか騰訊控股(テンセント)、北京字節跳動科技(バイトダンス)美団点評(メイトゥアン)など中国の大手IT企業たちは、独占禁止法に関わる規制当局者から裁判所の判事に至るまで、様々な役職にあった元役人を何十人も雇っている。このような状況の中、習政権は民間企業にきちんと統制を利かせることができるのだろうか。

逆に圧力かけて罰金減額

元役人の存在は習政権のIT企業に対する締め付けを難しくしている(写真=新華社/アフロ)

 民間に引き抜かれた元役人の中でもとりわけ有名なのが、商務省独占禁止局の副局長を務めていた崔書鋒氏だ。同氏は19年からアリババの競争政策研究部門の責任者を務めている。

続きを読む 2/2 元判事を雇い裁判勝訴率9割

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2141文字 / 全文3184文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。